第32章ー5
実際、虎哉宗乙禅師の考えは全く的外れどころか、かなりの部分で当たっていた。
伊達政宗が帰宅すると、両親の輝宗と智子が満面の笑みを浮かべて政宗を待っていた。
輝宗は政宗を見て、開口一番に言った。
「政宗、学習院に入れるやもしれぬぞ」
「学習院?」
政宗はすぐには分からなかった。
「先程、鬼庭良直殿を介して日本本国政府から連絡がありました。日本本国から夫の輝宗にそれなりの官位を与えたい。その場合は受けられるのか否か、教えてほしいとのことで、どんな官位でも謹んでお受けします、とあなたの父は答えたのです」
智子が息子の政宗に説明した。
「もし、本当にそれなりの官位が与えられれば、お前を日本本国に送り、伯母になる織田夫妻に預けて学習院に入れようと思う。そうすれば色々と将来に役立つだろうからな」
輝宗は政宗にそこまで言った。
一応、政宗はブラジルにおいて小学校に通っている。
ここブラジルでは植民地の常としてそれこそ代用教員資格しか持たない小学校教員が当たり前で、更に言えばその小学校の校長が代用教員資格者というところまで珍しくないが、伊達家の御曹司が通う小学校だからということで、輝宗が奔走した結果、流石に代用教員資格者を皆無にはできなかったが、正規教員が教員のほとんどを占め、当然に校長も正規教員というブラジルでは一番の小学校に政宗は通っている。
とはいえ、所詮は開拓真っ最中のブラジルの小学校だし、政宗が成長して通うべき中学校、高校をどうするかとなると、輝宗も智子も頭を痛めざるを得なかった。
だが、それなりの官位、具体的には従五位下以上の官位を輝宗(又は智子)が得られれば話は別だ。
父母がそれなりの官位を持っていれば、その子は日本本土で学習院に通うことができる。
この場合で言えば、輝宗の子である政宗は学習院に通えるのだ。
「学費というより日本での生活費は心配するな。今の伊達家の家計は、それこそ奥羽にいた頃よりも遥かに豊かだからな。織田家が下にも置かぬ程の生活費を十分に送ってやれるぞ」
輝宗はそう言った。
実際、中南米の開拓は順調に進んでおり、特に今のブラジルは天然ゴムの採取を盛んに行っていて、伊達家もゴム長者といえる存在になっている。
他にも天然染料等も大量に世界に売っており、伊達家はそれでも富強になっていた。
更に言えば、中南米全体が好況に沸いており、中南米にいる日本人は極めて裕福になっていた。
政宗は父母の話を当初はポカンと聞くだけだったが、徐々にその内容が頭の中に染み渡ってきた。
もし、父の輝宗が本当にそれなりの官位を得られたならば、自分は日本本土に赴いて学習院に通えることになる。
その暁には、話だけずっと聞いていた憧れの伯母夫妻の織田信長や美子と、自分は同居して暮らせることになるのだ。
だが、それを聞く内に政宗には心配なことができた。
「伯母の織田夫妻の家に、私は本当に住めるのでしょうか。狭いことはないのですか」
伯母夫妻がいるのは京の都だ。
京の都には10万人以上の人が住んでいると自分は聞いている。
そんなところに、伯母夫妻が大邸宅を構えているとは政宗には想像できなかった。
だが、母の智子は微笑みながら言った。
「安心なさい。美子姉さんの家族が住んでいるのは、約500坪もの大邸宅です。庭も入れれば約1000坪あります。貴方1人のために個室を与えてくれます」
「そんなに大きいの」
政宗には10万人以上の人が住む大都市の中にそんな邸宅を構えられる等、とても信じられなかった。
「儂が官位を得られればの話だがな。だが、まず間違いない話になるだろう。政宗、学習院に通えるのを楽しみにしろ」
「はい」
伊達父子はそう語り合った。
次話からオーストラリアが主な舞台になります。
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