第31章ー15
その他にも結果的にはよもやま話をして、上里勝利は浅井長政夫妻や竹中重治の下を去った。
その頃には日も暮れかけており、カイロ支店には文字通りに顔だけ出して勝利は帰宅の途に就いた。
帰宅した後、勝利はずっと考え込んでいた。
「父さん、どうしたの」
勝利の顔が徐々に気難し気になっていくのが気になって、12歳になる養子の秀勝が声を掛けてくる程の時間が流れた程だった。
その息子の声を聞いて、勝利はようやく我に返った。
「ああ、すまん。何か忘れているような気がするのだが、それがどうにも思い出せないのだ」
息子に対して勝利は言った。
その声を聞いた妻の宇喜多氏が、夫に言った。
「そういう時は別の事をした方が良いですよ。そうしていると、ふと思い出しますよ」
「確かにそうかもしれんな」
勝利はそう言って、考えるのを一旦は止めることにした。
考えるのを止めた勝利は家族と夕餉を囲んだ。
今、エジプトにいる勝利の家族は自分を含めて4人いる。
妻の宇喜多氏と養子になる秀勝と冬子である。
宇喜多氏と勝利は結婚して20年近くになるが、実子に恵まれなかった。
そうしたことから、結局は勝利夫妻は勝利の姉夫婦になる織田信長と美子の子ども2人を養子に迎えることになったのだ。
秀勝は今でこそ健康になっているが、小学校に通うようになる頃まで、それこそ隙間風にさらされただけで発熱したり、お腹を壊したりする程に病弱だった。
それこそ養祖父になる上里松一が、
「秀勝が大人になるとは思えない」
と半ば匙を投げるようなことを陰でいう程だった。
また、宇喜多氏もできたら子どもを二人は育てたい、と言い出した。
こうしたことから、後からゴタゴタが起きないようにとも考えた末、秀勝の実妹にもなる冬子を3歳になったばかりの頃に勝利夫妻は養女として迎えた。
実の兄妹ということもあるのか、秀勝と冬子は3学年違いの仲の良い兄妹として育ってきた。
自分達の実子で無いことについては、それぞれ二人が小学校に上がる頃に勝利夫妻は伝えている。
そうは言っても、秀勝と冬子から見れば勝利は実の母方の叔父にもなる。
秀勝や冬子にしてみれば、二人が物心つく前から親子として共に暮らして育ったこともあり、事情を知らない人たちからは全く気付かれること無く、4人は実の親子のように睦み合っていた。
尚、二人の子とは生さぬ仲の宇喜多氏だが冗談なのだろうが、
「秀勝と冬子の実母になる義姉さんの事を考えると可愛がるしかないですよ」
と陰で言っているらしい。
実際、勝利の姉の美子はキレると今上陛下すら叱り飛ばすという噂が流れる存在だ。
それを考えると、宇喜多氏が秀勝と冬子を可愛がるのも当然の気が。
そこまで何となく考えた瞬間に、勝利は忘れていたことを思い出した。
カレーだ、イングランドが蒸気船を手に入れたい、更に日本の北米植民地も手を貸すというのは、カレーが背景にあるのだ。
イングランドや日本の北米植民地にしてみれば、カレーを経由して逃げてくるユグノーは人道的にも保護に値する存在だ。
更に様々な意味で自分達に利益をもたらしてくれるのだ。
成程、人道的にユグノーを援けるためと言われては、日本本国も蒸気船の件を止めろ、とは言いづらい話になってしまう。
更に日本の北米植民地における深刻な人手不足がある。
ユグノーというか、カルヴァン派のプロテスタントは、日本の北米植民地にしてみれば喜んで迎え入れたい人手という訳か。
勝利は厄介な話だ、と改めて考えた。
妹の和子らがどこまで考えているのかは分からないが、こういったことは何時か本当に抜き差しならない話になってしまう。
本当にこの辺りで落ち着いて話し合わないと取り返しがつかない気がする。
これで第31章を終えて、次から第32章になります。
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