第31章ー10
「ともかく、そういった事情からポルトガルのセバスティアン1世は、本気で十字軍戦士を目指されているようです。そして、究極の目標としては日本と戦争をして勝利を収め、それによってかつてのポルトガルの栄光を取り戻そうと策されているようですが、とても現実的な目標とは言えない。そうしたことから祖父のジョアン3世が放棄したモロッコにある幾つかの拠点を取り戻すのを、まずは目指されているようです。モロッコはイスラム教徒の国ですし、そう言った点からも十字軍的行動で素晴らしいことだ、とセバスティアン1世は信じ込まれているようですな」
竹中重治は、更にポルトガルについて弁舌を振るった。
「その目標に現実味はあるのか」
浅井長政が口を挟んだ。
「皆無です」
重治は一刀両断の口調で言った後で続けた。
「何しろスペイン王のフェリペ2世が、セバスティアン1世の行動に反対していることからして自明の理です。ポルトガル国内でもセバスティアン1世の行動は無謀であると諫める廷臣が多いと聞きます」
「それならば、素直にセバスティアン1世も自らの行動が無謀であるとして、モロッコへの遠征活動を止めるべきでは。それなのに何故に止まないのですか」
重治の言葉を聞いて、思わず上里勝利は疑問を呈したが、重治が浮かべた表情を見てすぐに覚った。
そうか、重治は実はセバスティアン1世の行動を裏では指嗾しているのだ。
重治は勝利の考えを察したのか、察していないのか微妙な口調で言った。
「全ての廷臣が、セバスティアン1世の行動を諫めている訳ではありません。一部の廷臣は佞臣と言って良く、セバスティアン1世のモロッコ遠征を支持しているとのこと。更に言えば、現在、モロッコを治めているのはサアド朝で、その国王はアブドゥッラー・アル=ガリブですが、病が篤いという噂が流れています。その後継者として、息子のアブー・アブドゥッラー・ムハンマドが父によって指名されていますが、それ以前からアブドゥッラー・アル=ガリブとその弟2人の仲は悪く、弟2人、アブー・マルワン・アブド・アル=マリクとアフマド・アル=マンスールは、オスマン帝国を頼って亡命生活を送っています。アブドゥッラー・アル=ガリブが亡くなれば、弟2人はモロッコ王位を簒奪しようと図るでしょう」
重治はそこで一時、言葉を切った後で続けた。
「当然のことながら、セバスティアン1世はこういったモロッコ情勢を把握しています。そうしたことから、モロッコで王位継承をめぐる争いが起こり次第、介入しようと策しているようです。我々はオスマン帝国の属国ですから、オスマン帝国の意向を汲んで動かざるを得ません。そして、オスマン帝国がサアド朝の後継者争いに介入しようとしている以上、我々も動くことがあると考えて準備せねば」
「モノは良いようだな。モロッコで争乱が起きたら、我々も首をツッコむつもりか」
「ええ。ジブラルタルは事実上の日本領であり、大西洋と地中海の出入り口は、日本の監視下にあると言えますが。やはり、モロッコは親日的な政権で抑えたい。何しろスペインやポルトガルが、日本と手を組むのはそれこそアリエナイ話です。そうなると、大西洋と地中海の出入り口を抑えるのには、モロッコに親日政権を樹立させるのが良い話です」
長政が半ば問いかけるように言い、重治もそれを事実上は肯定した。
勝利はつくづく考えた。
こちらから積極的に動いていないとはいえ、本当に色々ときな臭い動きが、モロッコ国内とポルトガルでは起きているようだな。
そして、オスマン帝国も、更にエジプトもそれに介入しようと策している。
本当にその時が来たとき、どのようなことが起こるやら。
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