第31章ー8
竹中重治は、浅井長政夫妻や上里勝利に対して、西欧や南欧について自らが把握して理解している範囲のことについて弁舌を振るった。
「まず、我々にとっても主敵といえるスペインですが、最早、ガタガタと言っても良い状況になっています。南北アメリカ大陸及びその周辺からは日本によって追い出されてしまい、本土の一部のジブラルタルは表向きはスペイン領のままですが、日本の国旗が租借地として翻る有様です。欧州最強、いや世界最強の国家と欧州内で謳われた面影は、今や見る影もありません。これまでの借金を全て踏み倒すために破産宣告を日本本国との休戦条約締結直後にしましたが、それさえも焼け石に水で、財政を再建できるどころか、新たな借金の山ができつつあるとか」
「それはまた、凄まじい有様ですな」
勝利は半ば合いの手というか、相槌を打ちながら考えた。
南北アメリカ大陸を中心とする植民地をスペインが失ったことは、それだけスペインの国力に大打撃を与えているのか。
「フェリペ2世は何とかして軍の装備を日本に負けないようにしようと懸命に部下に発破をかけているそうですが、アルバ公を始めとする部下達は日本やその植民地から武器を輸入し、それによって軍の装備の向上を図るしかない、と多くが考えているようです。何しろアルバ公を始めとしてメキシコやペルーで実際に日本軍と戦った部下もそれなりにスペインに帰国しています。そういった部下の主張とあっては、フェリペ2世も無碍にはできず、日本やその植民地からの武器輸入によって軍の装備の向上を検討することを王自身が認めざるを得ないようですね」
重治は、一旦はそこで言葉を切った後、日本とスペインの武器の格差等を改めて語り出した。
「もっとも、スペインで生産されているマスケット銃で、日本本土で最近、量産化に成功したボルトアクション式連発銃に対抗すること自体が不可能に近い話ですし、大砲に関しても同様に差があります。また、スペインが自力でボルトアクション式連発銃を量産化する等、文字通りに神の援けが必要な話になりますから、アルバ公らがそう訴えるのも無理はない。それにフェリペ2世自身、ジブラルタル攻防戦で日本軍の火力の猛威を見せつけられましたから、何とか武器の輸入を図ろうとしているようです」
重治はそう言って、他の3人を見回した。
勝利は、ふと不安を覚えた。
まさか異父妹の武田(上里)和子らは、スペインに銃砲といった武器を売ろうともしているのではないか、何しろイングランドに蒸気船を売ろうとしている疑惑が生まれている。
イングランド以外にも禁制の銃砲を売ろうとしていると誰が言えるだろうか。
そう勝利が考えていると、重治は更に話を始めた。
「ですが、スペインに放っている伊賀衆の面々等から入ってくる情報によれば、少なくとも日本の北米植民地の上層部、つまり松平元康や武田義信、それから武田和子らは、銃砲をスペインに売ることには極めて否定的なようです。やはり、カリブ諸島をめぐる戦闘を経験しており、又、ジブラルタル遠征まで行う程の戦争経験が欧州に武器を売ることに否定的な上層部に空気を産んでいます」
「それならば、どうやって銃砲といった日本の武器を、スペインは手に入れるつもりなのだ」
長政が口を開いた。
「言うまでもありません。密輸によってです。ですが、ここで言うのは文字通りの密輸です。日本の北米植民地政府はスペイン等に銃砲を売ることは否定しているようです。しかし、北米のみならず中南米でも日本の植民者は基本的に武装しています。こういった民間向けの銃等を手に入れようと、スペインは考えているようです」
重治はそのように答えた。
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