第30章ー13
後、3話で第30章を終える予定です。
そして、第31章の第1話を投稿する段階で割烹で補足説明をする予定ですが、一応の補足説明をすると、前話では織田(上里)美子としては今上陛下は全く夫、織田信長を内閣総理大臣候補としては考えていないと考えて、夫の信長を怒って叱り飛ばしましたが。
実際には今上陛下は織田信長を内閣総理大臣に、ということを考えており、そうしたことから、本話のやり取りに至った次第になります。
さて、この二条晴良太政大臣と織田信長、織田(上里)美子の三人の密談は、結果的にこの場の話では終わらなかった。
万事休す、と考えた二条太政大臣が、今上(正親町天皇)陛下に内閣総理大臣への指名を辞退する旨、奏上することになり、その際に今上陛下は二条太政大臣を慰留しようと試みた。
だが、国会、特に貴族院における情勢を奏上して、とても無理なことを二条太政大臣が重ねて奏上したのだが、その際に美子の忠言まで今上陛下に二条太政大臣は話してしまったのだ。
その言葉を聞いた今上陛下は、二条太政大臣が退出した後で暫く考えた末に尚侍として出勤していた美子を呼び出した。
「何用でしょうか」
余程の事が無いと尚侍である自分が、直接に今上陛下に呼び出されることは無い。
それを知っている美子は緊張して今上陛下の下に赴いて言上した。
「うむ。尚侍を罷免する」
「えっ。私に何か落ち度でも」
「いや、無いから罷免するのだ」
思わず口答えをしてしまった美子に、思わず禅問答のような答えが今上陛下から返ってきた。
今上陛下は言葉を継いだ。
「内閣総理大臣だが、先程、二条晴良が来て指名を辞退すると言って来た。かと言って、近衛前久は以前の一件(スペインと勝手に条約を締結し、更にガリポリ海賊との交渉を勝手に美子に丸投げしたこと)から、とても指名する気にならない。一条内基はまだ若く、経験がまだまだ足りない。そうなると摂家から内閣総理大臣の指名はできぬ」
(註、九条兼孝の養父九条稙通は既に隠居の上に出家しているので、貴族院議員にもなっておらず、資格がない。九条兼孝に至っては満20歳で貴族院議員になっていない。
更に付け加えると、衆議院議員、貴族院議員共に25歳以上が有資格者になっている。
これは余りにも若い議員はどうか、ということ声が挙がったことから25歳という年齢制限がつけられたことからだった)
「そして、二条晴良と話し合った際に、そなたの夫の織田信長が内閣総理大臣に意欲を示していると聞いた。更に織田信長が、そなたに協力を頼んだともな。だが、そなたは夫の頼みを断った。今上陛下を政争に巻き込むわけには行きませぬ、とな。それこそ朕を守る真の尚侍の態度と言えよう」
今上陛下の御言葉に、美子は深く頭を垂れた。
「だが、このままでは朕は内閣総理大臣に織田信長を指名できぬ。そなたの夫ならば、この状況において内閣総理大臣を任せても良い、と朕は考えるが、今のままではそなたが夫を積極的に内閣総理大臣に推薦した、と疑惑を持たれよう。それは朕にとっても不本意な話だ。それ故に、そなたを尚侍から罷免する。自発的辞職ではなく罷免という形を取れば、近衛らも余り文句を言えまい。罷免という形で汚点を残すことになるが、黙って甘受してくれぬか」
「仰せに従います」
今上陛下の御言葉に、美子はそれ以上の言葉を発せられなかった。
「うむ、済まぬな」
今上陛下もそれ以上の言葉を言わなかった。
いや、言えなかった。
本来の血筋から言えば日本人でさえないのに、日本人として今上陛下の事を考えて盾として奮闘しようとした者を罷免するしかない。
そう言った現実をつらく感じてならなかったのだ。
美子は考えた。
これで結果的に夫は初の内閣総理大臣に成れるだろう。
私を罷免することで、私の推挙ではなく朕自らの考えで現状から考えて内閣総理大臣に衆議院第一党の党首の織田信長を内閣総理大臣に指名したという形を対外的に示せる。
それにこれで、私は貴族院議員として自由に動ける。
このように自分は考えて、今上陛下が自分を尚侍から罷免すると仰せられたことは、色々な意味で全てが上手く動く流れになった、と前向きに考えて行こう。
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