第27章ー5
1568年8月末、スペインによるジブラルタル奪還作戦は完全に失敗に終わっていた。
何とかジブラルタルを奪還しようと、スペイン陸軍は坑道戦術を採用することで、ジブラルタルへの再攻撃を行おうとしていたが、「ザ・ロック」を観測拠点等として活用する高坂正信の防御の前に、再攻撃を再開することさえ困難であるという現状に追い込まれていた。
こうした中で、鈴木重秀は更なる作戦を行うことを決断した。
それは対スペインの作戦では無かった。
本来から言えば行うべきではないといえる対バルバリ海賊(オスマン帝国と事実上の同盟関係にある)との対決作戦だった。
これは、武田(上里)和子の示唆によるものだった。
「鈴木重秀に頼みたいことがあります」
「何なりとお申し付けください」
武田和子は、鈴木重秀がジブラルタル攻略に赴く前に、特に指示を鈴木重秀に個人的に出していた。
何故にこのようなことになったか、というと。
武田和子は、本願寺顕如の猶姉になる。
本願寺門徒の一員である鈴木重秀から見れば、武田和子は事実上は北米における本願寺門徒の最高指導者の立場にあると言って良かった。
また、6年程前に雑賀衆は武闘強硬派路線を突き詰めすぎていて、当時、一緒に活動していた倭寇仲間からさえも忌避されつつあって日本政府等に売られる寸前だった。
そうした苦境から雑賀衆を救い出して北米に迎え入れたのが武田和子であり、鈴木重秀ら雑賀衆にしてみれば命の恩人と言って良かった。
こうした関係から、鈴木重秀は武田和子の頼みを聞くのが当然と言う気になっていたのだ。
「ジブラルタル攻略後に余裕があればで構いません。バルバリ海賊を挑発して潰しなさい」
「バルバリ海賊は日本の同盟国であるオスマン帝国と友好関係にあります。本当に潰して良いのですか」
武田和子の指示に、鈴木重秀は疑念を示したが。
武田和子は一蹴する態度を更に示した。
「我々が地中海を自由に往来するのに通行料等を払え、とかバルバリ海賊が言って来たらで構いません。裏返せばそれをバルバリ海賊が認めるか否かです」
「成程」
鈴木重秀にも、武田和子が言いたいことが朧気ながら見えてきた。
鈴木重秀にもエジプトが独立を目指して騒乱状態にある、更にその指導者は浅井長政である、という情報が届きつつある。
武田和子としては浅井長政の縁者である以上、エジプト独立を後押ししたいのだ。
そして、最悪の場合はバルバリ海賊を叩き潰すなりしてでも、エジプト支援の行動に支障がないようにしようと、武田和子は画策している。
自らが倭寇の一員であったことから、鈴木重秀にしてみれば、バルバリ海賊の理屈が推察でき、更にこれを逆用するにはどうすればよいかも推察できた。
日本の商船はオスマン帝国との協定により地中海の安全航行が保障されているが、バルバリ海賊はオスマン帝国の完全な傘下には無いし、自らの縄張りを通る以上は通行料等の支払いを求めるであろう。
それを拒絶して、バルバリ海賊から攻撃を仕掛けさせることで、こちらに正義がある、とオスマン帝国側に訴えればいいのだ。
「どこまでやりましょう」
「バルバリ海賊をトコトン挑発してやりなさい。相手を怒らせて攻撃させて、後は分かりますね」
「世界一の海賊が誰なのか。バルバリ海賊どころか、オスマン帝国、スペイン、ローマ教皇庁等に鳴り響く事態が起きても構わないと」
「私はそこまでは言いませんが、そうなっても構いません」
「本願寺の怖ろしさが欧州全体に轟くでしょうな」
「自由な貿易をさせない相手が悪いのです。本願寺門徒は平和な信徒が集っています」
武田和子と鈴木重秀は惚けた会話をした後、鈴木重秀は地中海へと赴くことになったのだ。
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