第26章ー15
1568年10月下旬、日本の介入によりエジプト独立問題は決着した。
かつてマムルークが蔓延っていた時代と半ば同様に、エジプトはオスマン帝国から半独立的な立場を認められることになり、浅井長政はワーリー(総督)の地位に叙せられた。
ワーリーの任期は1年ということになったが、浅井長政がワーリーの地位を引き続き望むことを申請するならば、オスマン帝国はそれを尊重して引き続きワーリーに叙することになった。
そして、エジプトからの貢納の額は従前の2割増しということになった。
これは浅井長政が主導したエジプト独立戦争によって、オスマン帝国が様々な打撃を被ったことに対するエジプトへの懲罰という意味からそうなった、と内外に対して説明された。
また、エジプト独立戦争を指嗾した最大の戦犯であるとして、木下藤吉郎はエジプトで首を刎ねられ、その首はセリム2世に献上された。
(尚、実際には偽首であり、別名を与えられて木下藤吉郎はパナマに赴くことになる)
だが、こうなったのは日本とオスマン帝国双方にとって思わぬことが起きたという理由もあった。
「それは本当なのですか」
「ええ、間違いのない情報です。更に言えばクルチ・アリは敗死したとのことです。日本政府は本当に知らなかったのですか」
「知らぬも何も。そのようなことは全く認めておりません。確かに日本とスペインとは戦争状態にあり、北米にいる日本人、松平家等がスペイン本土を海上から襲撃することはあり得ますが、まさかそのようなことまでするとは」
オスマン帝国からの情報に近衛前久太政大臣らは困惑するしかなかった。
北米にいる松平家等の軍勢が、ジブラルタル攻略を果たしたというのである。
更にジブラルタルから地中海へと松平家等の艦隊が侵入してきたことから、クルチ・アリはバルバリ海賊の頭領として松平家等の艦隊から通行料を取り立てようとしたことから、松平家等の艦隊の逆鱗に触れてしまい、クルチ・アリの艦隊は撃滅されて、クルチ・アリは敗死したというのだ。
更に勢いに乗じた松平家等の艦隊によってアルジェが焼き払われたというのだ。
確かに一方的に通行料を払え、と言いがかりをつけてきたクルチ・アリの方に非があるといえば非があるので、オスマン帝国も殊更に問題視するつもりはないが、クルチ・アリの艦隊が撃滅されたのは、オスマン帝国にしてみれば、地中海の制海権に大打撃を受けたといってよい事態だった。
更に日本艦隊が西地中海からも侵攻してくる勢いを示してきた、といってよい事態である。
それに唯でさえコンスタンティノープル沖合に、オスマン帝国艦隊全艦を相手取っても勝てる「三笠」が停泊しているのだ。
こうした戦況に鑑みて、オスマン帝国側も名を捨てて実を取れるのならば、ということでエジプトの属国化を認める日本の介入案を認めることになったのだった。
それはともかくとして、松平家等の艦隊を止める必要が近衛太政大臣らの特使団に生じてしまった。
そのためにエジプト問題の解決が付いた後で。
「止むを得ません。「三笠」でジブラルタルに向かって現状を確認した上で、オスマン帝国との和平を命じることにしましょう」
近衛太政大臣の決断の下、「三笠」は急きょジブラルタルに向かう事態が起きてしまった。
織田(上里)美子は「三笠」の艦上で潮風に吹かれながら、頭を抱え込んだ。
どう考えてもこの件の背後には、妹の武田(上里)和子の姿がちらつく。
妹にしてみれば、日本の為に良かれと思って行動したのだろうが、どう考えてもやり過ぎだ。
ジブラルタルで話が付けばよいが話が付くのだろうか。
近衛太政大臣も頭を抱え込んでしまっている。
美子は溜息しか出なかった。
第26章の終わりで、次話から第27章に入ります。
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