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第26章ー9

 さて、近衛前久太政大臣と浅井長政の対談は、織田(上里)美子と竹中重治が双方に付き添って行われることになった。

 近衛太政大臣はスエズ方面の戦況がエジプト側に優勢裡にあることを把握したことから、オスマン帝国が日本の介入による仲裁案を受け入れる公算は高いと考えるようになったが、問題はどのような仲裁案を双方に提示するかだった。


「小早川隆景中佐から、エジプトがオスマン帝国の属国、貢納国になる代わりに内政自治を認めるという案ならば受け入れる用意があるとは聞いておるが、その意見は変わりないのか」

「その意見に変わりはありませんが、その前提条件として、エジプトがそれなりの軍備を保有できる、というのが第一条件です。無防備な状態にされては、オスマン帝国が気が変わって攻め込んできた際に、エジプトは抵抗できません」

 近衛太政大臣の問いかけに、長政は答えた。

 その横では竹中もその言葉に肯いている。


「どれくらいの軍備を考えている」

「陸海併せて約3万人は認めていただかないと。オスマン帝国軍の最大動員兵力は約20万人と推定されています。それに対抗するとなると、やはり3万人は必要です。エジプトの人口は大よそですが500万人近い。それから考えても3万人は妥当な線かと」

「ふむ」

 近衛太政大臣と長政は、具体的な数字を挙げてのやり取りを始めた。


 美子は2人の会話を聞きながら、長政の内心を推測した。

 恐らく3万人というのは常備兵力だろう。

 そして、訓練済みの将兵を育てて、いざという際には数倍の軍勢を揃えようと長政は画策している。


 美子は敢えて悪女のように微笑みながら言った。

「それでは、希望する兵士の数ではなく武器の数を言っていただけませんか。まさかとは思いますが、エジプト防衛に20万挺の後装式ライフル銃と数千万発の銃弾が必要とか言われませんよねえ」

「何を突拍子もないことを」

 竹中が慌てて口を挟んできたが、その態度が長政と竹中の本音を暗に示していた。


 さしもの竹中も美子とは初対面であったことから、虚を突かれてしまったのだ。

 まさか宮中女官長といえる尚侍の美子が、軍事関係のことに口を出すとは思わなかったのだ。

 だが、美子の養父は元海軍士官の上里松一である。 

 また、美子が12歳まで育ったシャム王国は周辺諸国との紛争に当時は明け暮れていたと言ってもあながち間違いではなく美子の実父はその犠牲になっており、美子はそういった空気の中で育ってきたのだ。

 だから、美子は同年代の日本女性よりも軍事的な感覚を持っており、的確な発言が出来た。

 そして、近衛太政大臣も竹中の態度から、二人の本音を覚った。


「流石にそれはオスマン帝国が呑まないぞ。オスマン帝国は銃の数とかまで注文を付けるだろう」

 近衛太政大臣は、わざと溜息を吐くように言った。

 だが、美子の言葉は近衛太政大臣に更なるヒントを示唆していた。


「エジプトがオスマン帝国の属国となって、内政自治が認められる。更にエジプト軍の兵員数や銃の数は制限されるが、エジプトの国力増大の為の工業化の一環として様々な兵器工場が作られるのを、オスマン帝国は認めるというのはどうかな。ああ、勿論、それらの兵器をオスマン帝国に対しては積極的にエジプト側は格安で提供する、という前提条件もつくだろうがな」

 近衛太政大臣は、それとなく提案をした。


 浅井長政と竹中はその提案に唸った。

 近衛太政大臣は、兵器工場をエジプトが持つことで、表向きは軍備制限を受け入れつつ、内実では軍備強化を図っては、という提案をしている。

 これは受け入れるべきだ。

「オスマン帝国が、それを受け入れてくれることを望みます」

 長政はそう言ってここに基本方針が定まった。 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 暴れん坊殿下が今のところ、良い判断をしている、と思います。 [気になる点] 酔っ払い皇帝こと、セリム2世。 基本、政務は「爺に任せる。よきに計らえ。」ですが、決して大宰相ソコルル・メフメト…
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