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第26章ー3

 さて、何故に織田(上里)美子が従三位尚侍に叙せられる事態が起きたかというと。


 まず第一に今上(正親町天皇)陛下の思し召しがあった。

 今上陛下は、エジプト独立戦争が起きたことを聞いて以来、大御心を大変に痛められていた。

 同盟国であるオスマン帝国を攻撃するようなエジプト独立戦争は言語道断である。

 何としても、速やかに終わらせないといけない、そのために自ら乗り出したい、とまで想われていた。


 その一方で、近衛前久太政大臣の思惑もあった。

 それこそ二条晴良外務大臣を排除してまで、エジプト独立戦争を自らの手で収めようと考えていた。

 そうなると、オスマン帝国との交渉に赴く面々に有力者、閣僚級を入れると、自らの功績が奪われることまでは無いだろうが。自らの功績が薄まると考えていた。

(尚、近衛太政大臣としては、オスマン帝国との交渉成立が第一とは考えており、自らの功績を重視する余り、オスマン帝国との同盟関係破棄に至るようなことは全く考えてはいなかった)


 このような思惑が絡み合った結果として、

「織田美子を従三位尚侍に任じた上で勅使としてオスマン帝国に派遣したいと思います」

「何故に」

「内侍司の長官である尚侍を勅使としてオスマン帝国に派遣する。オスマン帝国にしても、日本の宮中女官長自らがオスマン帝国に赴くとあっては、日本の今上陛下がオスマン帝国との平和を望んでいることを疑う者等、一人もいなくなるに違いありません」

「おお、それは良き考え」

 近衛太政大臣と今上陛下は、(要約すれば)そのような会話を交わして、織田美子を従三位尚侍に任ずることにしたのだ。


 そして、近衛太政大臣にしてみれば、織田美子は極めて有用な人材だった。

 官位等からすればオスマン帝国への副使に織田美子はなるが、これまでの経歴から言ってお飾りに過ぎず、オスマン帝国との交渉の成果は自分が独り占めできるのが自明だからだ。

 また、近衛太政大臣は自らに娘が産まれた場合は皇后にしよう、その前段階として宮中儀典等の復活をしようとも考えていた。

 こうしたことからも、尚侍復活を目論んでいたという事情もあったのだ。


 そして、このような流れから、織田美子は従三位尚侍に任ぜられたのだが。

 一人、不満を零す者がいた。

 織田信長である。

 妻が従三位尚侍(更に言えば清華家の三条家の正式な養女)になったのに、自らは無位無官なのだ。

 逆玉婚にも程がある話になった。


 そして、臍を曲げた末にエジプトに行く際にそれなりの立場が欲しいと信長は言ったが。

 妻の美子の方が上手だった。

「近衛太政大臣に掛け合った所、オスマン帝国に赴く軍艦の水夫に任ずるとのことですよ」

「えー、お父さん、セーラー(水夫)服を着るの。気持ち悪い」

 美子の信長への言葉を聞いた、信長と美子の間の長女の徳子はそう言い放った。


 尚、この頃の日本ではセーラー服は軍艦の水夫以外は主に女学校生が着る服になっている。

 更に言えば水夫の多くが二十歳前後で、三十過ぎの信長がセーラー服を着ては、徳子のような感想を持つのが当然とも言えた。


「娘の徳子に気持ち悪いと言われた」

 信長が衝撃を受けているのを見て、美子は肩を叩きながら言った。

「いい加減に観念して私の随員として一緒にエジプトに行って、浅井長政やお市と話し合いましょう」

「そうだな。そうする」

 娘の徳子に気持ち悪いと言われた衝撃から、気落ちしていた信長は妻の言葉に応じてしまった。


 こうしたことから、信長は極めて本人としては不本意ながら、オスマン帝国に赴く使節団の随員(それも妻の美子の)として出発することになった。

(もっとも、ほぼすぐに回復した後、信長は儂は妻の添え物でない、と大いに暴れることになった)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 有難い叡慮です。 尚侍が勅使として停戦を命じれば、君側の奸がどうこう、などと邪推する馬鹿者は出ないでしょう。 [一言] え~、織田(平)徳子? 将来は、入内して〇〇門院とかになるのかな? …
[一言] 本当にこの話における信長は不憫ですなw
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