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第25章ー25

 勿論、実際にエジプト軍が無傷ということは無かった。

 何しろ約400門の大砲による砲撃が半日に亘って浴びせられたのだ。

 幾らオスマン帝国軍の大砲の弾が、基本的に鉄の塊に過ぎないとはいえ、それだけの砲撃が浴びせられては、エジプト軍にそれなりの死傷者が出るのは当然の話だった。


 しかし、エジプト軍の将兵は事前にできる限りの方策で築かれた塹壕に籠って、オスマン帝国軍の砲撃に耐えていたのだ。

 そのためにオスマン帝国軍の嵐のような砲撃と言えど、直撃を食らわねば死傷者が出ないのが、エジプト軍の現実というモノだった。

 更に塹壕に籠っている敵軍に対して、直接射撃しかできない大砲でどれだけの損害を与えられるのか。

 また、いわゆる反斜面陣地と化している敵陣地に、直接照準による砲撃の効果がどれだけ上がるのか。

 オスマン帝国軍の砲撃効果が上がらず、エジプト軍の死傷者が少ない事態が起きるのも当然だった。


「どれくらいの死傷者が出ている」

「およそ数百名といったところですな。オスマン帝国軍相手に約20倍の損害を与えたようです」

 柴田勝家の問いかけに、佐々成政は胸を張って答えていた。


 その答えを聞いた柴田勝家は、更に考えた。

 オスマン帝国軍の第一次攻勢は完全に失敗した、といっても過言ではない。

 この損害でオスマン帝国軍がエジプト独立を認めてくれればいいが、そう上手く行くだろうか。

 それよりも目の前のオスマン帝国軍兵士の死体の処理が問題だ。

 彼らの多くがイスラム教徒である以上、まさか、火葬にするわけにはいかない。

 とはいえ、そのまま放置していては、戦場衛生上多大なる問題が生じることになる。

 それに敵軍とは言え、オスマン帝国の勇敢な兵士に敬意を表されるのは、オスマン帝国にとっても悪い話ではない筈だと自分には思える。


「オスマン帝国軍相手に使者を送れ。今から明日夕刻までの停戦を申し入れたい。その間に双方の将兵の遺体を弔っては如何かと」

「確かに。自分達の余裕を示すためにも良いかと思います」

 柴田勝家の提案に、佐々成政は微妙にずれた回答をしつつも賛同した。


 柴田勝家の提案は、ソコルル・メフメトにすぐに受け入れられた。

 ソコルル・メフメトにしても勇戦して戦死した将兵の遺体を弔わずに放っておくというのは、政治的によろしくない話である。

 更に言えば、自分が指示した第一次攻撃が無惨な失敗に終わっているのだ。

 そして、眼前の柴田勝家が籠っている陣地攻略の目途が全く立たない中で、戦死した将兵の遺体をきちんと弔わずにいては、健在な将兵にしてみれば、俺達が戦死することをソコルル・メフメトは何とも考えていないのか、という反発心を抱かせることになる。

 また、第二次攻勢を行う際に、自分の指示に従って前進しようという将兵を減らすことにもなる、とソコルル・メフメトに考えられたのだ。


 かくして一時的な停戦協定が結ばれ、エジプト軍とオスマン帝国軍は、お互いに自国軍の戦死者を弔い、又、負傷者の手当てを行った。


 そして、停戦協定を結んでいた時刻が経過した後。

 ソコルル・メフメトは、眼前の柴田勝家が籠る陣地帯を迂回しての攻勢を目論んだ。

 陣地帯を迂回することで、柴田勝家を陣地帯から引き離しての野戦を強要して、オスマン帝国軍に勝利をもたらそうと考えてのことだった。


 だが、ソコルル・メフメトの考えには抜けがあった。

 それはこの戦場の土地勘に関しては自分達が上だという誤った錯覚からもたらされた。

 エジプト軍の指揮を執るのは日本人だが、ここを戦場として選んだ際に徹底的に土地を調べていた。

 一方、オスマン帝国軍はそこまで土地を調査せず、錯覚のままで戦ったのだ。

 この差が第2戦で出ることになる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 参謀本部陸地測量部の存在を云うまでもなく、陸士出身の士官は測量が出来る筈で・・・。 それ以前に、運河を作る以上、綿密な測量は怠れない。 大宰相ソコルル・メフメトの大失敗となるか? [一言]…
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