第25章ー21
小早川隆景中佐は浅井長政との面談が終わった後、更に宇喜多直家とも会うことにした。
浅井長政らとの面談の後、この独立戦争の発端が宇喜多直家らにあるらしいことを竹中重治から教示されたので、小早川中佐の本音では会いたくなかったが、宇喜多直家にはカイロ領事という立場がある。
そういったことから、全く会わないのもどうか、宇喜多直家の意向を探らねば、という考えが小早川中佐にはあった。
(尚、浅井長政や竹中重治はエジプト独立を主に画策したのが、木下藤吉郎や宇喜多直家らであると様々な筋の噂から推測はしていたが、完全な証拠までは掴んでいなかった(その辺りについて、木下藤吉郎らも巧みにカバーを掛けていた)。
こうしたことから、小早川中佐としては疑心を抱きつつ、宇喜多直家の本音を探ることになった)
宇喜多直家の面談との面談の場において、小早川中佐は副官を同伴し、直家は黒田孝高を同伴しての面談ということになった。
宇喜多直家は当初は畏まり、このような事態を防げなかったことを詫びるような態度を示したが、徐々に本音を露わにした。
「エジプトにいる日本人の不満を何とか宥めようと奔走したのですが、力及ばず申し訳ありません。ですが、このような事態に陥った以上は、この際にエジプトを独立させてしまいましょう」
(超要約すればだが)宇喜多直家は、小早川中佐にそう言って来たのだ。
小早川中佐は溜息を吐きながら言った。
「オスマン帝国は日本の同盟国だ。それを相手の独立戦争等、日本が認められるものか」
「しかしですね」
宇喜多直家に口添えしようと、黒田孝高も口を出そうとした。
小早川中佐は容赦なく、黒田孝高を睨みながら、半ば吐き捨てるように言った。
「私は宇喜多直家領事と話をしている。君は黙り給え」
「分かりました」
黒田孝高とて外務省の職員ではあるが、現役の海軍中佐相手に意見をするのにはまだまだ若すぎた。
更に言えば、13歳の歳の差がある(この時、小早川隆景は35歳、黒田孝高は22歳)。
この歳の差もあって、小早川中佐は黒田孝高を強引に黙らせた。
だが、宇喜多直家にこの手は通じない。
「お怒りのご様子はごもっとも。でも、それならエジプトの日本人を見殺しにしますか」
「日本政府の指示があればそうする」
「指示がない以上、日本人の保護に努めるべきでは」
「モノには限度がある。明らかな犯罪者の日本人を保護できるか」
小早川中佐は、宇喜多直家とやり取りをしている内に、これはマズいと感じた。
この男は巧みに言質を取って、自分をエジプト独立戦争に巻き込もうとしている。
「ともかく、私は現状について日本政府に速やかに報告することにする。これで話は終わりだ」
小早川中佐は強引に席を立ち、浅井長政に一言、断りを言った後、「高千穂」で日本本国に向かい、浅井長政の意向や自分の把握した現地情勢等を日本政府に伝えることになった。
「上手く行かなかったか」
「欲をかき過ぎましたか」
「そうかもな」
宇喜多直家と黒田孝高は、小早川中佐が乗る「高千穂」が視界内から去った後、そう会話を交わした。
「小早川中佐を「高千穂」と共にアレクサンドリア港に止め置きたかった。そうすれば、オスマン帝国は海上からのエジプト奪還を諦め、更に日本政府の本格介入を懸念して、エジプト独立を認めると考えたのだが、上手く行かなかった」
宇喜多直家は、そう半ば独り言を言った。
「では、どうしますか」
「日本政府次第だな。近衛太政大臣が自ら来たら面白いが」
黒田孝高の問いに宇喜多直家はそう答えた。
「近衛太政大臣が来ますかね」
「あの男なら来るかもしれん」
宇喜多直家は侮蔑している口調で言い、更に思った。
あの男はお調子者だ。
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