第25章ー5
木下藤吉郎は、手を組んでいる蜂須賀小六らと巧みに謀略を練った。
ベドウィン族は幾つかの氏族に別れており、その全ての氏族とスエズ運河建設会社が友好関係を結んでいる訳では無い。
何故かと言えば、どうしても長年にわたる氏族間のしがらみというのがあるからだ。
更に言えば、スエズ運河建設は、それこそベドウィン族が長年にわたって往来等することで使用してきて半ば自分達の土地だとみなしていた土地の一部を開発することである。
そうしたことから、スエズ運河建設会社と円滑に話し合いができて、更に協力体制が築けた氏族もそれなりにあるが、その一方であの氏族とスエズ運河建設会社が手を組むというのなら、自分達の氏族は仲間になるのはお断りだ、むしろ敵対するぞ、という氏族もそれなりにいた。
又、こういった氏族の対立を見て、この氏族の対立の仲介をしたり、この氏族の対立から距離を置いたりする氏族もいるという次第で、傍から見ればベドウィン族はバラバラと言って良かった。
もっとも、日本本国も丹羽長秀を現地での長に据えたスエズ運河建設会社も、この状態についてはそれなりに是としていたのも、また事実だった。
全てのベドウィン族を懐柔して、日本に協力させるとなるとそれなりどころではない費用と手間暇がかかることになるからだ。
それくらいなら、古来から言われる「分断して統治せよ」ではないが、協力的な氏族の働きで、スエズ運河建設の現場がそこそこ安定してくれる状況になるのなら、それで十分ではないか、というのもまた現実的な考えであった。
木下藤吉郎らは、こういった状況を悪用した。
日本に中立的な態度を取っていて、日本に敵対する氏族とも関係を維持しているあるベドウィン族の氏族の有力者にそれなりのダミーを置いた上で接触し、オスマン帝国の武器庫からの横流し品だとして、件の前装式ライフル銃(勿論、それなりの弾丸も付けてある)を渡したのだ。
だが、別の筋からはその氏族は、表面上は中立だが実際には日本に敵対しているという情報が、木下藤吉郎らの下に入っており、木下藤吉郎らもそれを承知で流したのだ。
その氏族の有力者は、前装式ライフル銃が10挺程、手に入ったことで強気になった。
早速、スエズ運河建設の現場を夜襲して、日本の物品を手に入れる計画を立てだした。
日本側はこの事実を知らない筈、だから、奇襲効果を得られる筈でそれなりの獲物を得られると見込んでのことだったが。
木下藤吉郎はその情報を前田利家に流した。
但し、この前装式ライフル銃が実はこちらが流したモノというのは流石に伏せてである。
前装式ライフル銃を日本に敵対的なベドウィン族が手に入れたという情報を聞き込んだ、襲撃を警戒すべきだ、という程度の情報に落としていた。
前田利家にしても、木下藤吉郎らの腹の底は分かっているが、黙っている訳にも行かない。
上司である柴田勝家に報告した。
前田利家の報告を聞いた柴田勝家は激怒した。
「何、前装式ライフル銃を日本に敵対しているベドウィン族の氏族が入手したらしいだと」
「はい、噂ですので真偽は不明ですが」
「前装式ライフル銃は、自分達以外はオスマン帝国軍しか持っていない筈だ」
「はい」
尚、スエズ運河警備隊は基本的には後装式ライフル銃を前線での武器にしている。
日本に敵対的なベドウィン族の氏族がマスケット銃まで持ち出した以上、それに対抗するために武器を向上させるのは当然の話だった。
「オスマン帝国め、我々を攻撃するつもりなのか」
「取りあえずは真偽を確認する必要があるかと」
「確かにな。最高水準の警戒態勢を取って捜査に掛かれ」
前田利家の報告を受けた柴田勝家はそのように指示を下した。
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