第24章ー14
そんな想いを夫の上里勝利がする一方で、妻の宇喜多氏もエジプトにいる知り合いに緊急帰国する旨を伝えることになっていた。
「この4月から子どもが一緒に小学校に通えるものと思っていたのに」
前田まつは、そう言って宇喜多氏との別れを惜しんだ。
(メタい話になるが、この世界の)まつは14歳になって早々に利家と結婚してすぐに子宝に恵まれた。
実子に恵まれない宇喜多氏やおねにしてみれば、何とも羨ましい女性である。
尚、この結婚は恋愛結婚で、まつの惚気話によると、
「いやあ、私が小学生の頃から、従兄の儂の嫁に成れと夫に口説かれて結婚したのよ。私も物心ついた頃から、利家兄ちゃんと呼んできて、お互いに好き合っていた仲だったから結婚したの」
とのことだが。
(半ば言うまでもないことかもしれないが、利家とまつは実の従兄妹(お互いの母が実の姉妹)になる。
また、史実と同様にこの世界でも、まつは実父の病死、母の再婚と言った事情から利家の両親に3歳で引き取られて、利家と実の兄妹のように育った仲だった)
宇喜多氏やおねは陰ではその話に引いてしまっている。
何しろ利家はまつよりも8歳年上で、学年で言うと9学年も違うのだ。
幾ら何でも同級生とかならともかく、8歳も年上の男が小学生の従妹を口説くというのはどうかというのが、宇喜多氏やおねの想いだった。
実際に利家らの周囲もそう想ったようで、頭を冷やすためもあって、利家を陸軍士官学校に入らせたのだが、利家の頭は冷えず、まつの恋心も維持されて、利家が陸軍士官に任官した後で、(この世界で結婚可能になる)14歳になったまつと利家は結婚した次第だった。
そして、まつは長女の幸子、長男の利長と相次いで子どもを産んでいる。
また、宇喜多氏とまつは、更に別のことを陰で話し合った。
「やはり、やる気なの。利家殿はどう言われているの」
「儂では止められない、と言い訳しているわ。それこそ、貴方こそ兄を止められないの」
「私が兄を止められるのなら、夫が止めているわよ」
「でしょうね。浅井長政夫妻の身に危害が及ばないように打てる限りの手は打つけど、それが私には精一杯のところね」
「よろしくお願いするわ」
二人共に具体的なことは言っていないが、二人共にエジプト独立計画を念頭に置いて言っている。
まつは密かに二股をかけていた。
夫と共にエジプト独立計画賛成派の振りをしつつ、裏では宇喜多氏に通じてエジプト独立計画阻止派に転じられるように、まつはしていたのだ。
だが、宇喜多氏がエジプトを去ってしまっては、まつとしても完全にエジプト独立計画賛成派と行動をともにせざるを得ない。
その一方で、前田利家と織田信長は、かつての家臣と旧主筋という関係以上に、気の合った友人関係を一時は築いていた仲でもある。
そうしたこともあって、宇喜多氏は、せめてもの依頼として信長の妹夫婦になる浅井長政夫妻を守るようにまつに頼むことになり、まつもそれを引き受けることにしたのだ。
だが、それなりの依頼を、まつも宇喜多氏に対してせざるを得なかった。
「エジプト独立計画が本当に成功したとして、後で闇で処断ということが無いように、日本に帰ったら周囲に働きかけておいて」
「それは難しいと思うわ。エジプトに骨を埋める覚悟をしてもらわないと」
まつとしては、エジプトが独立した後、ほとぼりが冷めたら家族で日本に帰りたいのだ。
しかし、宇喜多氏にしてみれば、それはムシの良すぎる考えだ。
エジプト独立計画は日本の同盟国を攻撃する計画だ。
計画参加者は厳罰になるのが本来だからだ。
宇喜多氏の突き放した言葉に、まつは顔をひきつらせた。
でも、まつとしても最早、引き返せなくなっていた。
流石に史実通りに利家夫婦が関係を持っては、皇軍が来訪したこの世界では犯罪なので、上記のような経緯で、二人はこの世界では結婚して子どもができたということでお願いします。
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