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第23章ー20

 ソコルル・メフメトは素早く頭を回転させて、そこまで考えた後で上里勝利に言った。

「ともかくワーリーとして、スレイマン2世陛下にスエズ運河をもう一つ作るという日本の提案が確実に届くように私は図ろう。それからその費用等を日本政府はどう考えられておられるのか」

「新たなスエズ運河を日本が作ることを認めて頂けるのなら、その費用は全て日本が負担します。更に技術者以外の作業員については、全てエジプトで募集して雇用します」

「ほう」

 勝利の返答にソコルル・メフメトは唸った。


 それならば、オスマン帝国の新たな負担は皆無だ。

 いや、作業員の報酬等でエジプトが潤うことから考えると、オスマン帝国の利益が大きい話だ。

 だが、何故にそこまでの事を日本はするのだ。

 ソコルル・メフメトの心の中に疑念が浮かんだ。


 勝利はソコルル・メフメトの微かな表情の揺らぎを見て、ソコルル・メフメトの内心に日本のスエズ運河建設についての疑念が浮かんでいるのではないか、と直感で感じた。

 さて、どう弁ずるべきだろうか、悩みつつも自分の考えに基づく本音を述べることにした。

 それが一番、ソコルル・メフメトの心に響いて誤解を生まないと勝利の直感的に感じられたからだ。


「日本が何故に今になってスエズ運河建設費用を全額負担して、作業員も基本的に現地雇用するような好条件を示すようになったのか。疑念を覚えられて私も当然だと思います」

 勝利はすかさず弁じた。

 勝利がいきなり言葉を発したことに、ソコルル・メフメトは少し不快な表情を浮かべた。

 それに勝利は気圧される想いがしたが、こうなっては自分の想いを弁ずるしかない。


「実は古スエズ運河再開削に当たっている者から再浚渫等を頻繁に行わないと、ナイル川の土砂の影響で古スエズ運河再開削を行った後の維持管理は出来ない可能性が高いと私の耳にまで入る有様です。日本政府としてはスエズ運河を介した欧州との交易で更なる利益を得ようと考えており、古スエズ運河再開削によってできたスエズ運河がそのような状況にあっては、再浚渫等のために通航不能の事態が多発するという危惧を覚えざるを得ません」

 勝利はそのように弁じ、ソコルル・メフメトはその言葉に無言で肯いた。


「それを回避するために、新たなスエズ運河を掘ることを日本政府は考えています。その財源にしても、スペインを中南米大陸から追い出して、そこの金銀鉱山から得られる収益を当てれば何とかなると日本政府内では考えられています」

「ほう。そこまで考えられていましたか」

 勝利の懸命の言葉は、ソコルル・メフメトの心の奥底にまで響いたようだった。


「更に言えば、そうなっても古スエズ運河再開削が全くの無駄になることはありません。ナイル川上流で得られた物資等を紅海方面に速やかに運ぶ経路にも古スエズ運河は使われる筈です。こうした利点も併せてスレイマン2世陛下にお伝えしていただければ、と私は考えます」

 勝利はそう言った後、無言のままでひたすら頭を下げ続けた。

 その姿を見ながら、ソコルル・メフメトは無言で暫くの間、考え込んでいたが。


「真率なる想いを確かに承りました。スレイマン2世陛下にその想いをお伝えしましょう。更にエジプトの経済発展のための小西アレクサンドリア支店長からの改革提案について、ワーリーとしてできる限りの便宜を図るように致しましょう」

 ソコルル・メフメトは遂にそう決断して、勝利に対して明言した。


 勝利は心からの安堵の溜息を(内心で)吐いた。

 ソコルル・メフメト閣下がここまで踏み込んで言ってくれた以上、エジプトの経済発展のための改革をオスマン帝国政府側から妨害されることはまずあるまい。

 本当に良かった。 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 至誠天に通ず (嘘は付いていない。余計な事は云う必要がない。と言うことで。) 上里勝利氏、交渉大成功、おめでとうございます。 皇軍来訪世界での後世の歴史家は、この交渉の重要性というか存在…
[一言] ソコルル・メフメトとの会談はとりあえずはうまくいったようですが、妻の機嫌が最悪ですねw まあ、ある程度は事情や状況を理解していてくれるのでまだいいのでしょうけど。
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