第22章ー3
そんなことを織田(上里)美子が考えていると、上里松一は腹を括ったように、娘の智子の縁談の相手の名を挙げた。
「伊達輝宗殿を智子の相手と考えている。陸前の国司、伊達晴宗殿の跡取り息子になるな。他にも智子には何人かから縁談が持ち込まれているが、自分としては輝宗殿が第一候補だ。その点について、お前たちの忌憚の無い意見を聞こうと思った」
織田信長と妻の美子は顔を見合わせて、お互いに少し目で会話した。
伊達輝宗か、伊達家の御曹司になるな。
確か陸前の国司に伊達家はなられているが、国司の世襲は否定されている以上、そろそろ後継者をどの路へと歩ませるのか、を伊達家も考え出した訳か。
そして、智子を嫁にしたいということは。
結局、美子が口火を切った。
「伊達家も外に移民として出ようと考えているということですか。そして、上里家に協力を求めている」
美子の言葉に、松一は肯きながら言った。
「その通りだ。東海や南関東の諸勢力が、北米大陸に移民として赴いて稼いでいる。それに伊達家も続きたい、ということらしい。更に言えば、南米大陸を目指したいとも伊達家からは言われている」
義父と妻の会話を聞きながら、信長は伊達家の歴史を想い起こした。
藤原氏北家の分かれと伊達家は自称しているが、どこまで本当なのやら。
そうはいっても確実なのは鎌倉幕府草創期の頃に遡れるという名門武家の一つに伊達家はなる。
そして、南北朝争乱や室町幕府と鎌倉府の対立等を利用して勢力を周囲に拡大し、更に婚姻や養子縁組を介した肉親関係を築いた結果、伊達晴宗の父の伊達稙宗の代には陸奥守護に室町幕府から任ぜられて奥羽の大勢力として全盛を極めたが、父子相剋の果てに奥羽の諸勢力を巻き込んだ内乱が起きてしまい、そこに「皇軍来訪」があった末に今は陸前1国の国司に伊達家は零落している。
だが。
腐っても何とやらで、今でも伊達家の声望は奥羽においては極めて高いモノがあるらしい。
そして、元は伊達家の家臣である鬼庭良直は今は陸軍の将軍となり、確か陸軍省軍務局長になって陸軍内部を事実上は睨み据える立場にまで出世している。
ふむ、ということは。
そこまで信長の脳内は素早く回転した後で。
「これは鬼庭良直殿がこの縁談の話を持ち込まれましたか」
信長の言葉に松一は驚きの余り、思わず言ってしまった。
「何故に分かった」
そして、松一は慌てて口を塞いだがもう手遅れだった。
「何、簡単な推測ですよ。伊達晴宗殿は国司ということで、基本的に在京の身ではありますが、インド株式会社と接点がありません。更に言えば、それこそ確かに日本本土以外への移民が最近は人気を博すようにはなっていますが、そうはいっても、名門の武家や公家の間では日本本土で官僚や軍人となって出世を図るのが圧倒的に多い。そうした中で、伊達家が御曹司を海外移民の路を歩ませようと言うのには違和感がある。伊達家に近い誰かが、伊達晴宗殿に働きかけ、更にインド株式会社と結びつけようとしている。そう考えたのですが、本当に当たりだったようですね」
信長の言葉に、松一は渋い顔をしながら肯いた後で半ば吐き捨てるように言った。
「その通りだ」
「そこまで、推測されているのなら、ついでに教えておく。そうしないと邪推が起きそうだからな。この智子の縁談の件には、参謀本部の第一部長を務める柿崎景家将軍も一枚嚙まれている」
「「えっ」」
信長と美子は、松一の言葉に思わず同時に言った後でお互いの顔を見合わせた。
陸軍省軍務局長と参謀本部第一部長からの縁談の申し入れということは、陸軍の総意がこの縁談の陰にはあると示されているようなものだ。
何故に妹の縁談に陸軍が噛んでくるのだ。
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