第21章ー1 カリブ海の海賊ども
新章でカリブ海が主な舞台になります。
少し時が戻ることになる。
「天測結果によるもので恐らくですが、ミシシッピ川の河口が見えます」
「ようやくたどり着いたか」
1562年6月、サンディエゴからアカプルコへ、更にそこで積み込める限りの石炭を積み込んだ上でのドレーク(ムラカミ)海峡突破に挑んだ上で南米大陸を遥々と迂回して、ようやくニューオリンズ港への大遠征を果たせた日本海軍の機帆船11隻に乗り組んでいた面々は、ニューオリンズ港到着に一安堵どころではない思いをしていた。
それこそ、コロンブスの卵ではないが。
最初に物事を断行するのが、最も難しいことであるのは否定できない話である。
だが、最初の物事が成功したからと言って、その後すぐの物事が安心して行えるか、というと必ずしもそうでないのが、現実と言うモノなのだ。
今回、日本海軍の機帆船11隻が行った南米大陸を迂回した上での大遠征はそう言った代物だった。
それだけに実際に遂行できた面々にしてみれば、ニューオリンズ港に自分達が何とかたどり着けたことは感慨に耽らざるを得ない出来事でもあったのだ。
(尚、細かいことを言えば、機帆船11隻はニューオリンズ港に、戦闘航行共に支障これなく、という状態でたどり着くことに成功しているが。
そうはいっても、ドレーク(ムラカミ)海峡突破の際等において、悪天候による乗組員の死傷者、行方不明者が出たり、最終的には石炭不足に陥って、機帆船の利点を生かして帆走をしたり、薪をくべたり、という非常手段を駆使したりすることによって、ニューオリンズ港にやっとの思いでたどり着くことが出来たというのも現実の話だったのだ)
そして、そこで出迎えたある代物は、機帆船の一部の乗組員に不思議な感覚、感慨を抱かせた。
「左三つ巴の紋所が入った幟が翻っています」
「丸の中に上の一字が入った幟も翻っています」
事情を知らない見張り員からの報告に、乃美宗勝中佐はそっと涙を零して内心で呟いた。
「小早川家の紋所に、村上家の紋所ではないか。ここは三原とかの芸予の海港では無いのだぞ。全く、村上武吉少佐を表面上はふざけるな、と叱って、陰で褒めてやろう。それにしても、芸予の海賊が、カリブ海で海賊行為をすることになるとはな。おっと、海賊行為ではない、通商破壊作戦だな」
乃美中佐は、小早川家の分家である浦家の生まれになる。
更に言えば、村上少佐とも親戚と言う関係にあるのだ。
そうしたことからすれば、ニューオリンズの港に小早川家と村上家の紋所が共に翻る事態は、本当に涙がこぼれ出る事態としか言いようが無かった。
本来からすれば、瀬戸内海、それも芸予の近くでしか、小早川家の紋所と村上家の紋所が共に揃うことは無い筈なのだ。
それなのに、今、カリブ海において小早川家の紋所と村上家の紋所が共に揃って翻っている。
しかも紛い物ではなく本物だ。
ニューオリンズ港には入り婿で沼田小早川家の当主になった小早川道平(上里正道)がいる。
だから、小早川家の紋所が入った幟を翻らせて当然の立場にある。
村上少佐も、三島村上家の惣領といえる能島村上家の当主と言う立場にある。
だから、村上家の紋所の入った幟を翻らせていても、海軍軍人としてはどうかと言わざるを得ないが、本来からすればどこが悪いと言っていい話である。
乃美中佐は自分の直属の上官であって、カリブ海へ自分達を送り出した中南米派遣軍(海軍)司令部長官の児玉就方提督も、自分の気持ちを分かってくれるだろうと思った。
いや、児玉提督も安芸の出身だから、予めこの程度の事は予期していたのかも。
それならば芸予の海賊が瀬戸内海だけではなく、カリブ海でも恐るべき海賊であることを示してやろうではないか。
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