第20章ー14
そんな犬に関する雑談を交わした後、日本軍はまずは2個旅団を持って、アカプルコからメキシコシティへの進軍を開始した。
柴田大佐が率いる3個目の旅団が揃うのは、6月に入ってからになると見込まれており、そこまでずっとアカプルコに止まっておくよりも、メキシコシティへの進軍を行うべきだ、と武田晴信大佐や陶隆房大佐の意見を聞いた末に戸次鑑連将軍が最終的に裁断したのだ。
そして。
「嫌な予感がするな」
「ええ」
武田大佐は、部下の上杉景虎少佐と会話をしながら進むことになった。
何しろ、斥候らしき敵、スペイン軍騎兵の少数部隊と遭遇することはあるが、スペイン軍騎兵は日本軍の存在に気付くと、蜘蛛の子を散らすように逃げてしまうのだ。
戦場経験の少ない者なら、日本軍の姿を見ただけで逃げるとは、我々のことを余程に怖れているな、と慢心しかねないが、歴戦の武田大佐や上杉少佐からしてみれば、どうにもスペイン軍の行動は臭う。
あれは、我々を死地に誘い込もうとしているのではないか、と二人には思えて仕方がない。
尚、半ば当然のことながら、先鋒を務めているのは武田大佐が率いる旅団で、その後を陶大佐が率いる旅団が続いている。
これは武田大佐の方が陶大佐よりも歴戦の指揮官であり、更に陶大佐の旅団には1個歩兵大隊が欠けている以上は、当然の話でもあった。
更にこういった状況の報告を受けた戸次鑑連将軍も、陶大佐と会話を交わすことになった。
戸次将軍自身が、陶大佐の実戦での経験不足を懸念したこともあり、陶大佐に同行しているのだ。
「どう考える」
「メキシコシティに十重二十重の野戦築城を果たしていて、我々を迎撃してくる公算大ですな。そして、敵騎兵の行動は、その野戦築城の場所に我々を誘い込もうとしている」
「そう考えるか、自分も同様だ」
戸次将軍は、陶大佐の意見を聞いて、陶大佐の実戦感覚が鈍っていないことに内心で安堵する一方。
そういった場合に、自分達が対処できるのか、ふと戸次将軍は不安を覚えた。
そう、これまで自分達は「皇軍来訪」後に、敵の城塞、要塞をマトモに正面攻撃によって攻略した覚えが実はないのだ。
専ら野戦での勝利、更に敵が要塞に籠れば、兵糧攻めで城塞、要塞を落としてきたといってもよい。
もし、スペイン軍の城塞、要塞と言わないまでも野戦築城されたスペイン軍の陣地を、マトモに正面攻撃によって我々は攻め落とせるのだろうか。
戸次将軍の不安を見透かしたかのように、陶大佐は遥か前方、自分には実際には見えない彼方を見透かすかのような身振りをしながら、言葉を継いだ。
「正直に申し上げるならば、我々には大砲が36門、75ミリ級の山砲が32門、105ミリ級の榴弾砲が4門、手元にありますし。砲弾もそれぞれに約200発ずつあります」
ということは、7000発以上砲弾があるな、と戸次将軍はすぐに考え、更に陶大佐が砲弾量を把握していることに流石という想いがし、それだけ砲弾があれば大丈夫か、という想いまでも頭を掠めたが。
続く陶大佐の言葉に、背中が冷たくなった。
「とはいえ、スペイン軍がどれだけの陣地を築いているのか、実見して更に攻撃してみないと分かりませんが、スペイン軍騎兵の行動からして、どうにも嫌な予感がしますな。砲撃によって、野戦築城を崩すことが不可能とは言いませんが、野戦築城のやり方によって、その効果はかなり変わります。スペイン軍騎兵の行動からして、相手はかなりの名将です。野戦築城の腕もかなりのモノの気がします」
陶大佐は戸次将軍に対し、無遠慮にもそう言い放ったのだ。
流石にそこまで言われては、戸次将軍も陶大佐に不快感を覚えたが。
どうにも嫌な予感がし始めた。
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