第1章ー3
こうして困惑している内に、12月8日(?)は暮れてしまった。
とはいえ、このまま洋上をある意味、漂泊し続ける訳にも行かない。
山下奉文中将と近藤信竹中将は、無電でやり取りを繰り返した末、フィリピン(?)のリンガエン沖合に、大日本帝国陸海軍の各部隊の中で、連絡が取れて集まれる部隊を、現状における陸海軍部隊のそれぞれの最高司令官として、全てかき集めることにした。
寄らば大樹の陰、というか、状況が不明なことから、三々五々という感じで、連絡が取れた大日本帝国陸海軍の将兵は、フィリピンのリンガエン沖合に集結し、一部の陸軍部隊に至っては、リンガエン海岸に上陸し、その場において陣地の設営を始める始末だった。
実際問題として、敵勢力が近づいてきている訳ではない。
というか、敵勢力らしきものさえ見当たらない、というのが現実だった。
敵意を持っているのではないか、と疑われる帆船複数が、大日本帝国陸海軍の部隊に対して、接近を仕掛けてくることはあったが、接近するにつれて、見たことも無い艦船の集まりなのに気付いたかのように、文字通りに尻に帆を掛けて、全て退散していくのだ。
また、リンガエンに上陸した陸軍部隊に対して、好奇心からか警戒心からか、できる限りは身を潜めて、接近してくる者が全くいないではないが、軍隊というモノが本来的に発する威嚇から恐怖心を感じるのか、何とか視界内に入るか入らないか、といった程度までにしか、接近してこない。
そういった帆船や人間を、双眼鏡等で見張っている陸海軍の将兵は、どうにも違和感というか、時代が違うという想いが沸き上がるのを、迎えられなかった。
何しろ、彼らの行動を観察する程、昔の人間、下手をすると火薬の存在さえ知らない過去の人間が、20世紀の現代人に接触したら、このような行動を執るのでは、と思われる行動を取っているのだ。
ということは、という考えから、上記のような想いが沸き上がるのは、ある意味、当然の話だった。
本来なら、急げる限り急いで、という話になるかもしれないが。
何しろ、日本本国等との連絡が全くつかないのだ。
そういった事情から、補給、特に燃料の欠乏を危惧する声も内部で挙がったことから、連絡が付く大日本帝国陸海軍の将官クラスが、全てリンガエン沖合に集結したのは、12月12日(?)、異変が察知されてから、4日程が経ってから、という事態となった。
勿論、航空機を駆使すれば、1日もあれば、全ての将官が集えただろうが。
余りの異常事態の発生に、それこそ下手に航空機で将官のみが移動しては、部下を見捨てていくのではないか、という声が内部から上がることを危惧し、少なくとも一部の部下と共に、高速船で先に行く、という態度を、山下中将までもが執らざるを得ない、という事態だった。
そして。
「色々と遅くなってすみません」
近藤中将らと会って、開口一番に、儀礼的なこともあり、山下中将は巨躯を縮めて詫びを入れた。
勿論、それが儀礼であり、詫びる必要がないことは、近藤中将側も分かっているので。
「いえ、詫びることはありません。むしろ、こちらからお伺いすべきでした」
と近藤中将側も、山下中将に半ば詫びを入れた。
更に。
「現状で判明している限りのことを説明したい、と思います」
と近藤中将は言い、山下中将は肯いた。
「恐らくですが、我々は過去の世界にいる、と思われます。それも16世紀の半ば以前です」
近藤中将が、大上段に振りかぶって言った言葉に、山下中将らは呆然とした。
そんなことはありえない、近藤中将は発狂したのか、とさえ山下中将らは想ったが。
近藤中将の表情等を見る限り、真面目に言っている、としか思えなかった。
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