第17章ー40
そんな雑談をしつつ、昼食を終えた後、その日の夕方まで掛かって、久我晴通と細川藤孝は話し合いを続けた末に。
藤孝は、オーストラリア等から北米大陸に赴いた者達の庇護を務める連絡官に、北米大陸の地でなることになった。
例えて言えば、領事のような役目を、藤孝はすることになったのだ。
いざとなれば、晴通と直に面談できる、植民地総督府の各局の局長と同等の地位が、連絡官には与えられることになった。
藤孝にしてみれば、取りあえず満足できる地位だった。
そして、結果的にその日の夕食まで晴通と食べた後、晴通から藤孝は信長への言伝を頼まれた。
その翌日から連絡官事務所の人員等の整備や実際の活動等に、藤孝は奔走することになった。
従者が乏しかった藤孝としては、きつい話だったが、元々は主の義輝の命と思えば、如何ともし難い。
一緒に付いてきていた明智光秀らを抜擢し、積極的に現地雇用を図ることで、連絡官事務所の実動を藤孝は図ることにしたが。
その一方で、津田信長が間もなく日本に帰国することになった、という話を藤孝は小耳に挟んだことから、晴通からの言伝を果たすために、件の奥平の飯屋で顔を合わせて、信長と話をしようと試みることにしたところ。
そう画策した翌日には、藤孝は信長は顔を合わせることが出来た。
藤孝はそれとなく拳銃を人目に付かないように、服の下に吊っていた。
そのことから、信長は藤孝を只者ではない、とすぐに察したが。
藤孝としては、自分の地位をそれとなく示すために拳銃を吊っていただけだった。
「食事の後、外で少し話しませんか」
「いいでしょう」
藤孝の誘いに、信長は応じた。
「久我晴通殿から言伝を頼まれました。嚢中の錐とは、そなたのこと。きちんと本名を名乗れ、とのことです。部下には手を出すな、と既に戒めたとのことです」
「それは、わざわざご丁寧に」
外に出て、すぐの藤孝の言葉に、信長は表面上は何でもないように装ったが。
バレていたか。
信長は内心では、舌を出しながら想った。
ここまで結果的に米が売れるようにしてしまっては、晴通殿の耳にまで届いてしまうか。
信長の内心を、どこまで読んだのか、藤孝は当り障りのない言葉を表面上は続けた。
「紹介状を書きますので、何時か、都合が付けば、足利義輝殿に逢っていただけませんかな」
「それはまた何故に」
「シャムの米、インディカ米の炊き方を、足利義輝殿にも教えていただきたいのですよ」
「それは構いませんが、私に頼まなくとも」
信長はそう答えたが。
藤孝は、敢えて信長から目を逸らしながら、半ば独り言を言った。
「オスマン帝国では新型銃を使った新戦術を考案し、源氏長者の久我晴通殿からは婚約者を半ば掠奪婚し、北米にはシャムの米、インディカ米を大量に売り込むような破天荒な方なら、義輝殿に逢って話をする内に、義輝殿の勅勘を解く名案を思い付いてくださるのではないか、と想うのですよ」
「はは」
信長は、藤孝の言葉に大きな間違いはないな、と背中に冷や汗を出しながら想ったが。
その一方で、掠奪婚云々には誤解がある、と思わず反論したくなった。
あれは、妻の美子の暴走の結果だ。
いや、自分にしてみれば、美子から結果的に掠奪婚されたようなものかもしれん。
平手政秀が、順調に話が進み過ぎると怯えて、結婚式後に半ば逃げるように出家した程だからな。
それはともかく。
「分かりました。足利義輝殿には何時かお逢いしたい、と想います」
「よろしくお願いします」
信長と藤孝は儀礼を交わし合った。
そして、藤孝が去った後、信長は想った。
そろそろ帰国せねばな。
帰国したらすぐの頃に美子は出産するだろう。
今度の自分達の子どもは、男女どちらが産まれるだろうか。
これで第17章は終わり、次話から日本国内の話の第18章になります。
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