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第17章ー30

 更に厄介なのは、瀬名の行動は、日本政府自身が推進しているということだ。

 日本政府は、国民教育の一環から、小学校の設置に積極的で、植民地でも奨励している。

 だから、この村(?)にも小学校が作られたのだろうが。


 問題は、日本本土でさえ、教員は不足気味であり、小学校については、中学校や初等女学校を卒業しただけの代用教員でかなりの部分を賄っているということだ。

 だから、北米大陸の日本植民地では、この問題は尚更、深刻になっていて、久我晴通を総督とする植民地政府は、法令によって、代用教員だけで小学校を運営していい、という特例まで作っている。

 更に言えば、どうやらこの村(?)においては、小学校に瀬名しか(代用)教員の有資格者がおらず、それこそ小学校の卒業生が、低学年の在校生を教えるしかないのかもしれない。

 つまり、それこそ、実質、小学校の校長先生まで、16歳の瀬名がやることになっているのかも。


 そこまで、織田信長が推論していると、暗にそれを認めるようなことを、石川数正は呟いた。

「仮にも主、松平元康の婚約者なのですから、奥に大人しくおればよいのに。

 ああやって、表に出て来ては、子どもに勉強を教えております。

 実は、かなり松平家中を中心にして、多くの住民が、教員がいないこと等を理由に、小学校の設置には反対したのですが、瀬名殿が、今川家から連れてきた者達を味方につけ、教員がいないのなら、私が校長を務めても構わない、と言われました。

 更に、それを植民地政府にまで、わざと上申した者が今川家中にいたようで、久我晴通殿から、瀬名殿は正しいことを言われている、小学校を設置するように、というお言葉が出ては、最早、どうにも拒めずに、この村でもお金を集めて、小学校を建設し、今ではこのような有様です。

 なお、先程、瀬名殿に声を掛けたのは、本多忠高殿の息子ですな」


 成程な、信長は、数正らの想いを更に推察した。

 恐らくだが、所詮、子どもを教えることとはいえ、女性が教員を務めて、男を教える、ということも気に食わないのだろう。

 とはいえ、こういった現状を変えるのは、かなり難しい。

 それこそ、日本本土から、正規の教員資格を有する者を招く等、しなければならないが。

 それには、当然のことながら、費えが掛かるし、日本本土でも不足している以上、それなりのコネ等が必要不可欠だ。


 勿論、瀬名を通じて、今川家に助けを求める等すれば、何とかなるだろうが、それをしては、ますます今川家がこの土地で幅を利かせることになりかねない。

 自分が動いて、織田家なり、本願寺等のコネを使って教員を呼ぶのはどうか、という想いが、信長の脳裏を掠めたが、これまた、松平元康殿に上手く話を運ばないと、今の状況では、学校自体に否定的な元康殿やその周囲が、ますますへそを曲げるという事態が起こりかねないな。

 そこまで、信長は頭の中で考えを進めた。


 それはともかくとして。

 信長は、数正に提案をすることにした。

「それでは、今日は夕方も近いですし、明日朝、松平元康殿にお目にかかり、昼食を振舞いたい、と思いますが、その取次ぎをお願いできますかな」

「津田信長としてですか」

「基本的にはその名で、私の顔を知っている者や元康殿には本名でお願いしたい。久我晴通殿との因縁があるので、本名を名乗りたくないのです」


 それとなく小声で信長が言うと、旅で少し気を許してくれたのか、数正は顔を綻ばせながら言った。

「そういえば、そういう因縁が久我殿との間にはありましたな。よろしいでしょう。宿の手配りをしますので、そこで、どうかごゆるりと」

「かたじけない」

 そう信長は、数正に礼を言う一方、明日の食材を探すことにした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 男女平等という概念は20世紀の終わりにようやく広まったものではありますが、江戸時代の寺子屋などでは割と女の先生もいたようなので、そのあたり庶民はさほど気にしないのでしょうね。
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