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第17章ー29

 織田信長は、懸命に記憶を掘り起こした。


 松平元康は、先年、今川義元の実の姪にして養女になる関口家の娘、瀬名と婚約した筈だ。

 これは言うまでも無く政略結婚で、義元が北米大陸の日本植民地において、大きな利権を得ようとする行動の一環だった。

 北米大陸の日本植民地の草創期から開拓に従事して、成功していると言える松平家の御曹司、元康は北米大陸で利権を得ようと考えている者達にしてみれば、何としても味方にしたい存在だった。


 だから、それこそ打診だけ含めるのなら、両手で余る程の縁談が、もうすぐ結婚可能な14歳になる元康の下に、ゴールドラッシュ発生直後の11歳の頃から持ち込まれた末に、様々な行きがかりから。

 元康は、瀬名と婚約して、14歳になり次第、結婚することになったのだ。

 ちなみに瀬名は、元康より2歳程年上で、初等女学校を卒業してすぐ、北米大陸の日本の植民地に馴染むために、日本からこの土地に向かった筈だが。


 そこまで、信長が記憶を掘り起こしたところで。

 石川数正が、信長の耳に何とか入る程度の声の大きさで、独り言を呟いているのに、信長は気づいた。

「ある程度の成績以上で、初等女学校を卒業したら、小学校の代用教員の資格が得られるとはいえ。仮にも元康殿の婚約者の瀬名が教員をすることはないだろうに。幾ら、ここには教員が足りないとはいえ。そもそも学校等は不要だ。教育は金のある者が、子どもに教師をつけて教えれば済む話なのだ」


 成程な、信長は妙に内心で納得してしまった。

 日本本土でも、子どもの義務教育については、批判の声が農村や漁村では根強い。

 教育等、金のある者が自腹を切って教師を雇って、子どもに教えればいいことで、学校は不要だ、という声が、皇軍来訪から10年以上経つ今でさえ、何とか陰口レベルになったが、批判の声がある。

 ここ北米大陸の植民地では、そういった義務教育批判の声がもっと高いのだろう。


 確かに農民、漁民と言った面々の間では、学校教育の必要性、読み書き算盤等ができることの重要性を感じる機会は少ないだろう。

 そう言った面々にしてみれば、子どもと言えど貴重な労働力であり、学校はムダと考えがちになる。

 しかし、いざ街に出て働かないといけない、という事態になると、途端に状況は変わる。

 読み書き算盤等ができないと、上司からの指示の文書は読めないし、少し複雑な計算はお手上げ、等の困った事態を引き起こし、とても雇って使う、という話にはならないのだ。


 だから、日本本土の都市部では逆に教育熱心な面々が増えている。

 少しでも子どもにいい教育を付けて、子どもをいい所に就職させよう、というのだ。

 それこそ、妻の美子が中国語やアラビア語の私塾を開いたら、外国とのやり取りに必要だから、就職の際に有利になるから、とそれこそ社会人どころか、中学生でさえ、その私塾に来るだろう。

 そういった空気を味合わせたくて、大坂に妹のお市を呼んだのだが。


 お市曰く、

「本当?ただ単に、子守が欲しかっただけじゃないの」

 と自分が冷たく言われる羽目になったのは、自分にとっては完全に誤算だった。


 そんなことを、信長は頭の片隅で想いながら、元康と瀬名の夫婦関係を推察した。

 元康は、この北米大陸植民地に赴いたために、小学校を中退せざるを得ず、独学するしかなかった。

 一方、瀬名の方は、初等女学校を卒業し、代用教員の資格まで取得している。


 そんな事を気にするとは、ケツの穴が小さい男だ、と自分は言いたくもなるが、気にする男は気にするものだろう。

 更に言えば、このことで瀬名は気を遣っているようだが、元康にしてみれば、却って屈辱的な想いをしているようだ。

 厄介だな、そう信長は想った。

 作中の瀬名、史実の徳川家康の初の正室、築山殿の正確な年齢は不明で、諸説あるようですが。

 本作では、瀬名、築山殿は家康より2歳年上説を採っています。

 この辺り、歴史に詳しい方から、いや、築山殿の年齢は判明していて、実際の年齢は云々、という猛ツッコミが起こりそうですが、作中でも何度か書いてある通り、皇軍が赴いたのは史実とは異なる微妙な異世界なので、こうなったのだ、と緩く見てください。


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