第17章ー25
「何を言う。日本の米の半額で買えるのだぞ。しかも、味は自分自身で確認したではないか。炊き方も極めて簡単な話であろう。売る際に、単に米料理として売れば、日本の米なのか、シャムの米なのか、味が良ければ、そう気にする者もおるまい。充分に儲けが出るのではないか」
「うーむ。そこまで言われると確かに否定できん」
織田信長の強気な姿勢と態度に、奥平定国は妙な説得力を感じてしまい、納得してしまった。
「何だったら、インド株式会社に対して、香辛料を少し安く売るように紹介状も書いてやろうか」
信長はある意味、悪魔のささやきまで、定国夫妻にしたところ。
「お前さん。この話を受けて、松平元康殿に津田信長さまを紹介すべきよ」
定国の妻の方が、信長の提案に乗り気になって、夫を半ば責めだした。
「分かった。元康殿にそなたを紹介しよう。その代り、さっきのインド株式会社への紹介状と、この米料理の調理法を書いた紙を、先に自分に渡してくれ」
定国は決断し、信長は(内心でほくそ笑みつつ)定国の言葉に無言で深く肯いてみせた。
「ところで、話を変えるが。昨日のような発砲事件はありふれたものなのか。肝を冷やしたのだが」
松平元康への紹介の件が一段落したことから、信長は現状における北米大陸植民地の銃に関する現状を把握することにして、定国に尋ねた。
「昨日の奴は極端ですが。銃を密かに懐に入れて、携帯する奴は増えていますね」
定国は信長に答えた。
「それはまた何故に」
「結局のところ、自分の身は自分で守るしかない、という意識が強いからですよ」
信長の問いかけに、定国は少し顔をしかめながら言った。
「ほう」
信長は、巧みに合いの手を入れながら、定国から話を聞き出すことにした。
定国は、以下のような事情を端的に語った。
北米大陸植民地の人口は、それこそ1年毎に倍増の勢いで増えているが、裏返せば、そう言った人の急増は、当然のことながら、人間同士の紛争も激増させた。
ところが、そういった紛争解決のために必要な機関、警察や裁判所等々が、そういった激増に対応できる程の勢いで整備できる訳がない。
そうなると、人間の考えるのは、どこでも同じで、自分の身は自分で守り、また、紛争が起きれば、自力で救済していこう、ということになる。
更に厄介なことに。
「以前なら、紛争の際には、精々、槍や刀といった物をお互いに持ち出して、という感じだったらしいです。それでも、充分に物騒な話ですが、それこそ拳銃が登場したから、もっと不味い事態になったんで。全く紛争になったら、お互いに拳銃が持ち出されるのが当たり前になったら、剣術遣い等、余程の達人でないと、拳銃に歯が立たない。剣術が一遍に廃れてしまう訳ですよ。そして、拳銃があっという間に普及してしまう事態になったので。それで、自分も拳銃を持つようになりました」
定国は半ば自嘲しながら言った。
成程な。
信長は、半ば呆れるような想いもしたが、定国の言う事情も分かる気がした。
こういった状況になったら、お互いに拳銃を持とう、という話になるのも半ば当然の話か。
「流石にマズイ、という話になって、銃を携帯して持ち歩けるのは許可証を持った住民だけと法律で決まったのですが、昨日、あったように、そんな法律を無視して銃をこっそり携帯するのが後を絶たない。おまけに昨日の奴は頭に血が上っていたようだったので、私から発砲して、相手の頭を冷やしました。その判断で結果的に正しかったようで良かったです」
定国は半ば自嘲しながら、言葉を紡いだが。
信長は本当に頭痛がし出した。
これは拳銃を自分が買って携帯したら、違法行為になりそうだ。
とはいえ、どうすればいいのだろうか。
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