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第15章ー23

 ソコルル・メフメトとマカリエ主教兄弟の思惑が分かる筈もなく、上里勝利は兄弟の会食の席の料理を褒められ、無事に会食が成功した後、素直にホッとし、上機嫌になっていた。

 それに、ソコルル・メフメトが、スエズ運河開削に前向きな発言をしたのも、仕事のことから、勝利を上機嫌にさせていた一因だった。

 もっとも、ソコルル・メフメトは、更に勝利の気を逸らせることも呟いていたのだが。


 料理の紹介が終わり、スエズ運河開削の話も一段落した後の事だった。

「アーイシャ・チャンの実母の行方は分からないのかね。雇い主の家族として、捜していると思うが」

 ソコルル・メフメトは、勝利の気が抜けたのを見計らって、声を掛けた。

「ええ。アーイシャ・チャンを連れてきた華僑商人に聞いたところ、アーイシャ・チャンを買い受けた時点で、既に母子は生き別れていた、そして、母の行方を自分は知らない、とのことでした。ただ、こういった場合、嘘を吐く商人が多いですし、かと言って、華僑商人で日本人では無いので、特に犯罪者として捕まえる訳にも行かず、で糸が途切れています」

 勝利は、カバーストーリーを語った。


 実際、勝利も全くの嘘は吐いていない。

 日本自身は、奴隷制度や奴隷貿易を禁じているが、日本以外の諸国では、それこそオスマン帝国がそうだが、奴隷制度を公認していて、奴隷貿易を認めている国が多い。

 だから、日本としても、日本人でない奴隷を扱う外国人商人を、それだけでは、基本的に犯罪者として取り締まるようなことまでは、中々していないのだ。

 それに、日本も諸般の事情から、年季奉公人(という見方によれば、有期の奴隷)制度を認めている。

 アーイシャ・チャンも、日本の制度上は年季奉公人だった、と説明している有様だ。


「ふむ。都合のいい話にも思えてくるな」

 ソコルル・メフメトは、そう呟いた後、勝利を動揺させることを言った。

「それにしても、アーイシャ・チャンを側室にしよう、とか君は思わなかったのかね」

「アーイシャ・チャンが、父に執心して関係を持ちたがっていたようなので、諦めていました」

「本当にそうかね。君が誘えば、アーイシャ・チャンはなびいた気もするがね」

 それで、ソコルル・メフメトは、一旦、追及を止めたので、勝利は気を抜いたのだが。


「それにしても、アーイシャ・チャンは、かなりの才女だった。彼女が生きて還れて、有能な君と結婚できていたら、年も釣り合い、彼女は幸せな暮らしをしていたろうな」

「お褒め頂き、ありがとうございます」

 勝利が気を抜いたところに、すかさず言葉をソコルル・メフメトは掛けてくる。

 勝利は、ソコルル・メフメトの前を退いた際、背中は汗まみれになってしまっていた。


 勝利は、改めて想った。

 本当に、アーイシャ・チャンでは無かった、姉の美子は、あの頃、オスマン帝国の使節団の一員になる前は、本気で養父と関係を持ちたがっていたようにしか、自分にも思えなかった。

 養母の愛子が、とうとう堪忍袋の緒を切ってしまい、オスマンに行け、と家から半ば追い出したのも無理が無いとしか、自分にも思えなかった程だ。


 もっとも、オスマン帝国から帰ってきた後は、姉の美子は、憑き物が落ちたかのように、養父への執着心を無くし、今度は織田信長との結婚を自ら望んで、今では信長と幸せな家庭を築いてしまった。

 本当に男女の仲は、当人間でしか分からないとか、色々と言われるが、本当に姉の美子の考えは自分にもわからない。


 その一方で、勝利も想った。

 本当にそろそろ自分も身を固めないといけないな。

 誰と結婚すべきだろうか。

 この成果を土産に、日本に帰った際に両親と相談してみよう。

 そんなことまで、勝利は考えていた。

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