第2章ー15
結果から述べるならば、幾ら三司官の真徳が提言し、更に那覇港沖合に皇軍、大日本帝国陸海軍が展開しているとはいえ、琉球王国が現実を受け入れて、国王を始めとする国民の生命と内政自治権の保障と引き換えに、大日本帝国の領土に入ることは受け入れるのには、丸3日余りの日時が掛かった。
その間に、「妙高」の主砲は威嚇射撃を実演し、沖縄に赴いた第16師団の歩兵第9連隊から抽出された1個歩兵小隊は、38式歩兵銃と89式重擲弾筒を組み合わせた歩兵戦闘の演習を観覧させ、等のことをすることで、皇軍の武力が懸絶していることを、琉球王国上層部に痛感させている。
こうしたことが、琉球王国上層部に抗戦が不可能であることを、徐々に認識させたのであり、最終的には皇軍の武威の恫喝が、琉球王国上層部を屈服させたといえる。
そして、問題となったのが、琉球王国から皇軍に提供される予定の食糧だった。
物凄く単純で粗い計算になるが、10万人の1日の食糧は、1日100トンに達する。
それが2か月分となると、6000トンもコメ等を運ばないといけない。
いわゆる大型ジャンク船でも最低10隻は必要と試算され、マニラに輸送するとなると、かなりの苦労が必要になると思料されたが。
この辺り、琉球王国の柔軟性が示され、思わぬ解決策が示された。
「日本の一部になる琉球王国に感謝します」
「日本の一部になることは受け入れますが、その代り、内政干渉はお断りします」
「天皇陛下、ミカドの国になるということさえ受け入れられるのなら、こちらは構いません」
(半ば結果的に、沖縄に駐留する皇軍の最高司令官となった)第16師団長の森岡皐中将は、上里少尉を介して、漸くそのような会話を、12月26日に尚清王としていた。
上里少尉は、内心のかなりの面において後ろめたさを感じざるを得なかった。
はっきり言って、この場にいる中で、皇軍上層部と琉球王国上層部の通訳ができるのが、自分しか事実上はいないことを理由に、かなりの勝手働きをした末に、話をまとめたからだ。
マニラに主にいる皇軍への食糧(もっともほぼいわゆる外米ばかりになるのは止むを得なかった)は、張敬修のような華僑商人が買い付けから輸送を請け負い、その支払いに関しては、琉球王国が全面的に保証することになった。
ちなみに買い付け先は主にシャム(タイ)だが、明や安南等からも買い付けることになっている。
そして、これを聞いた張敬修は張り切って、この儲け話に知人の華僑商人を巻き込みだし、その話を聞かされた華僑商人も前向きになっている。
つまり、自分は結果的に義父(?)の私腹を肥やすのに、半ば加担したのだ。
とはいえ、公私混同と言われようと、今の皇軍に、米を買い付けて輸送する費用を支払う能力は無い。
だから、真徳を介して、その費用は琉球王国が支払保証することを提案させ、そのことを半ば恩に着させることで、琉球王国の自治を当面は認める、というのを皇軍上層部が呑んだのだ。
(この話を聞いた陸軍幹部の一部は、そんなことを言う琉球王国を完全に潰せ、という暴論を吐いた者までいたらしいが、山下奉文中将らに、それならお前らは、どうやって天皇陛下の赤子である将兵に食べさせる食料を確保するのだ、と一喝されて、沈黙するしかなかったらしい)
ともかく道徳的な後ろめたさもあり、上里少尉は、この一件を見届け終えた年始早々にも一旦、海軍から予備役に入りたい旨、上申する予定だった。
それに真徳からも、それとなくそうして欲しい旨、頼まれてしまった。
真徳としても、未来から来たと称する異形の軍と琉球王国との交渉の窓口を確保したいのだ。
上里少尉は、そんなことを想っていた。
これで、第2章は終わり、次話から第3章になります。
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