第15章ー14
少なからず横道にそれる話になるが、(この世界の現状における)ハラール認証について、この際に述べておくことにする。
ハラール認証とは、イスラム教徒にとって、(基本的にだが)食べることのできる食物を差す。
そして、それこそイスラム教が広まり出した初期の頃には、ハラール認証というのは、そう大きな問題では無かった。
イスラム教徒の数は、そう多くは無かったし、住む世界の広さから言っても、イスラム教徒同士の共通認識の差異のズレも小さく、これを食べることは問題ない、また、逆にこれを食べるのは問題である、という合意が、すぐにとまではいわないが、容易にお互いに取れていたからだ。
だが、イスラム教徒の住む世界が広がり、また、数多くの食物とイスラム教徒が出会うようになるにつれて、これはイスラム教徒が食べていいのか、どうか、という問題についての合意がとりにくくなった。
そして、こういった場合に、往々にして世界的にもあることだが。
権威のある機関等の判断で、ハラール認証がなされるようになった。
(この世界の)オスマン帝国領内では、イスラム長老を長とするイルミエ制度が確立しており、ハラール認証もその中で行われるようになっていた。
そして、日本から輸出される様々な醤油を含む大豆製品は、一部、アルコールを含むことから、酒であるとして、ハラール認証がオスマン帝国において中々下りなかったのだが。
様々な表裏伴う工作もあって、別途、アルコールを添加していない(要するに自然発酵によって含まれるアルコールは許されるということ)大豆製品で、インド株式会社を通して日本から輸出される大豆製品については、ハラール認証がオスマン帝国においては認められるということになった。
(そもそも論になりかねないが、醤油はアルコール度が通常の発酵に止まる場合でも、3パーセント程度は含まれてしまう。
更に減塩醤油等、塩分を控えるとなると、保存のためにアルコール添加が当たり前になる。
とはいえ、アルコールを添加しても、醤油のアルコール度数は、多くとも6パーセント程が精々であり、これで酔う程に醤油を飲んでは、その前に塩分過多で、飲んだ人がぶっ倒れるのが関の山である)
かくして、オスマン帝国領内に醤油を始めとする日本産の大豆製品が持ち込まれるようにはなった。
しかし、どうのこうの言っても、醤油等にオスマン帝国の住民は馴染みは無く、ある意味、醤油等がオスマン帝国領内では売り物にならない事態が続いていたのだ。
(上里勝利に言わせれば、1556年までは、タコが自分の足を齧るようなもので、オスマン帝国領内にいる日本人のためだけに、醤油等を日本から運んでいる有様だった)
だから、東方公会議の手伝いをしている中で、勝利は発想を転換した。
醤油等に馴染みが無いから、買う人がいないのならば、馴染みを作って売ればいいのだ。
東方正教会の公会議の手伝いの一翼を担い、更にその手伝いをしている人たちが、少しでも美味しい食事を、と公会議参加者への食事の提供、準備に苦労している現状を見ている内に、勝利は、敢えて醤油を使った料理を、参加者に対して振舞うことを考えた。
確かに一時的には赤字になる。
何しろ金をとらずに振舞い料理をしよう、というのだから。
しかし、醤油等の味を覚えてもらい、それによって、今後も買おう、と東方正教会の聖職者が考えるならば、更に、それを東方正教会の信徒も受け入れるならば、損して得取れではないが、最終的には大幅な黒字になるのが目に見えているではないか。
姉の美子は、長粒米、タイ米の美味しさを日本人に伝えたのだ。
自分も、醤油等の美味しさを東方正教徒に伝えてみせよう。
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