第15章ー2
上里勝利は、この当時、インド株式会社の従業員ではあったが、まだまだ下の立場で機密情報に触れることはできなかったし、養父の松一もその点では厳格で、裏から情報も流れては来なかった。
そのために後になってから、勝利自身は、こういう裏があったのか、と養父を始めとする人から教えられ、また、気づくことになったのだが、この際に少し裏を説明すると。
この世界に皇軍が来訪して、日本で新体制が築かれた後、天文学や暦に詳しい皇軍関係者は、この世界の陰陽寮に所属する人達と協力して、自分達の知識に基づく暦や天文学等が、この世界でも正しいのかを確認した。
望遠鏡の観測機器等を皇軍側が提供する代償として、陰陽寮が保有する、これまでの天文観測結果の知識等を提供してもらい、また、天文観測等を数年単位で行った結果、この世界でも皇軍知識に基づく暦や天文学が問題なく使えることが、日本政府内においては確認されることになった。
そして、皇軍関係者が使い慣れていることもあり、グレゴリオ暦への改暦が日本では暫定的に行われていたのが、本格的に行われていくことになったのだが。
(というのも、この戦国時代、日本の暦は旧暦、太陰太陽暦だったので、年間予算等を組むのにあまり向いていないという問題を抱え込んでいたのだ。
何しろ、大雑把に言って19年間に閏月が7月も入るのである。
そのために公務員の給料支払い等を月給制にした場合、13月分で組む場合がよく生じてしまう。
これは予算的には、余りどころか、かなりよろしくない事態と言えた。
かと言って、年俸制にした場合、後払いにしたら、就職者は1年間もどうやって食べる、という話になるし、前払いにしたら、就職者が逃げるのが目に見えているし、という半分笑い話が生じかねない。
こうしたこと等から、太陽暦、グレゴリオ暦への改暦が、日本では急がれたのだ)
その一方で、ポルトガルとの戦争等による海外との接触により、この世界でもキリスト教世界では、ユリウス暦が採用されていることが、日本政府に判明した。
また、ロシア帝国の前身となるモスクワ大公国の存在も判明し、皇軍関係者を中心とする日本政府上層部は、国家百年の大計として、未来知識からロシアの勃興を阻止できないまでも、力を大幅に削ぐことを何か日本はすべきではないか、と考えた末に、東西教会の合同、また、暦問題に着目するようになった。
ロシア帝国の前身となるモスクワ大公国が勃興した一因が、ビザンツ(東ローマ)帝国滅亡後、ビザンツ帝国の縁者と婚姻関係を結んだことから、東方正教会の守護者と自称し、周囲も徐々にそれを認めるようになったことにある。
そして、オスマン帝国へ日本が岩畔使節団を派遣した際、モスクワ大公国が史実通りに存在し、東方正教会の守護者を自称して、国力を伸ばしていることが判明したことから。
今更、東方正教会の守護者になっているモスクワ大公国を、その地位から追い落とすのは困難だ。
また、幾ら日本に未来技術があるとはいえどモスクワへの遠征等、不可能に近い。
だが、国家百年の大計のために、モスクワ大公国の力を削ぎ、ロシア帝国の脅威を減殺しておくのは、日本の将来のために必要なことだ。
そう皇軍関係者を中心とする日本政府は考えた。
また、スペインを弱らせ、南北米大陸を日本の勢力圏に置くのに、どうすべきか。
更にこの2つをまとめてできる施策は何かないか、と日本政府が考えた末に。
日本の未来技術によって確認された暦に基づく改暦をカトリック、(東方)正教会に提案して、暦の統一から東西教会の合同を進めよう。
更に、モスクワ大公国(ロシア帝国)を、東方正教会の守護者と呼べなくしよう。
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