第2章ー13
そんなことを上里松一少尉が思ってから、小1時間が経った頃、首里城内の一角にある小部屋に、上里少尉と張敬修父子はいた。
あの後、首里城からそれなりの地位にあると思われる人物が駆けつけ、那覇港からの上陸が、上里少尉らには認められたのだが、上陸が認められたのは、上里少尉と張敬修父子の3人だけで、残りは上陸を認めない、とその人物は言い張った。
上里少尉は想わず、皇軍を何と考える、と言い出しかけたが、よく考えれば、そんなことをしたら、自分の故郷の誇りである首里城を破壊することになりかねないことに気付き、自重することにした。
もっとも、張敬修自身は、この対応を予期していたようで、上里少尉と張娃を促し、3人で那覇港に上陸することにし。
更にその人物の案内に3人は従い、この小部屋に入った次第だった。
そして、小部屋に入って、そんなに3人が待つこともなく、60歳近いと見える白髪交じりの男性が、その小部屋に入ってきて、いきなり言った。
「久しいな。張敬修」
「お久しぶりです。真徳殿」
張敬修も、如才のない返事をする。
上里少尉が、それとなくその男性の後ろを見ると、3人程が付いてきている。
3人の様子からして、その内の2人が護衛で、残り1人は目付役のようだ。
この様子からして、この白髪交じりの男性が、三司官の真徳なのは間違いなさそうだ。
「ところで、その二人は」
「私の娘とその婿ですが」
「ふむ」
「ところで、あの方は」
「お前がこの地を去って、暫くして流行り病で病死した」
「それはお悔やみを申し上げます」
「何、世の常だ」
張敬修と真徳が、そんなやり取りをしている中。
上里少尉は、それとなく二人の様子を観察しながら考えた。
やはり、張娃と真徳は似ている。
更に真徳の眼に、ほぼ感情は浮かんでいないが、張娃に向ける目は愛おしみがある。
あの方、というのが、真徳の例の息子で、あの後も何かやらかし、真徳は闇で葬ったのかもしれない。
もっとも、これまた触れてはならない話のようだな。
そう上里少尉が考えていると、真徳はようやく本題に入った。
「あの船団は何者だ」
張敬修に目で促され、上里少尉は腹を括って、正直に言うことにした。
「400年未来から来た船団です」
本来なら、もう少し嘘を交えるべきだろう。
だが、この人物に嘘は通じまい、それに過去とはいえ、故郷、祖国の高官には正直に話すべきだろう。
それに、もしかすると身内になるかもしれないお方なのだ。
真徳は目を見開きながら言った。
「とても信じられん」
「ごもっともです。ですが、帆も櫓も櫂も無しに航行する船を見たことがありましたか?更に風上と言えども、自由に航行する船を。未来の技術によって、それが可能になったのです」
上里少尉は懸命に訴えた。
「ふむ。確かに、部下達もあの船団は帆も櫓も櫂も無いのに航行し、風上にも向かうと言っておるな」
そう言って、真徳は考えこみだした。
「どうか、我々と手を組んでいただけませんか」
上里少尉は訴えた。
本来なら、我々に従え、というべきだろう。
だが、裏切り者と言われるだろうが、自分は沖縄出身だ。
故郷の沖縄を少しでも守りたい。
張娃と真徳の秘められた関係を、何となく察した気になったこともあり、上里少尉は懸命に訴えた。
「それで、手を組むとして、何をしてほしいのだ」
真徳は、上里少尉に向かって言った。
「日本の現在の状況に関する情報提供と食料等の供給です。その代り、琉球王国の自治が守られるように努めたいと考えています」
上里少尉は言った。
山下奉文中将や近藤信竹中将は、沖縄を完全な日本領にしたいと望んでいるだろうが。
だが、時代が違うことを懸命に訴えれば、沖縄の自治権は護り抜けるのでは。
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