第2章ー11
「そうそうマラッカ海峡は、今、極めて波が高い有様になっています。ポルトガルがマラッカを占領し、その周囲にも手を伸ばしています。スマトラ島北部のアチェ王国も、マラッカ海峡の通航利権は垂涎の的のようでして、先程、申し上げたジョホール王国も加わり、三つの国、勢力が角逐する場となっております」
張敬修は意味ありげに、上里少尉を見つめながら言った。
「ふむ」
マラッカ海峡の通航利権、それは皇軍というか、日本が将来、インド等に手を出すことを考えれば、何としても確保しておきたいところだ。
張敬修としても、武装交易商人の一人として、マラッカ海峡の安寧を望んでいるのだろう。
だが、まずはブルネイを確保し、その上で日本は手を伸ばすことになるだろうが。
そう、上里少尉が考えていると、張敬修は気になることを言い出した。
「ポルトガルの商人が、明で人、奴隷を買い求めているのはご存じですかな」
「何ですと」
上里少尉は目を見開かざるを得なかった。
勿論、この時代において、奴隷制は世界の多くの土地で、基本的に合法とされてはいる。
だから、ポルトガルの商人が、奴隷を買い求めていてもおかしくはないのだが。
何となく上里少尉の脳裏では、(偏見からくるものだが)奴隷というと黒人だという意識があった。
だが、本来からすれば、奴隷が黒人に限られる訳が無い。
それこそ、歴史を紐解けば、白人の奴隷も黄色人種の奴隷もいたのだ。
もっとも、上里少尉の故郷の沖縄も、余り人のことは未だに言えないのも事実だった。
何しろ「糸満売り」、「辻売り」と呼称される年季奉公が、未だに横行しているのだ。
年季奉公なので、年季が明ければ解放されるとはいえ、年季奉公の間は、奴隷労働を強いられているといわれても仕方がない。
だが。
この時に、上里少尉の脳裏に主に過ぎったのは、ポルトガルの商人によって、日本人にも同様の事態が起きるのではないか、ということだった。
ポルトガル商人の日本来航を許せば、日本人も明(中国)人と同様に、ポルトガル人に買われる事態が起きるのではないか。
天皇陛下の赤子である臣民を、ポルトガル商人が買うような事態を引き起こしてはならない。
とはいえ、本当に戦国時代のままの日本なら、そのような事態が頻発するだろう。
何しろ、少し時代が下るが、義の武将で有名な上杉謙信でさえ、人身売買を公然と是認しているのが、戦国時代の日本だ。
国内に売ろうと、国外に売ろうと、売る側にしてみれば儲かるのなら、どうでもよいだろう。
こういう人身売買において、男女は共に売れる。
男なら農奴や傭兵として、女なら若いなら言うまでもないし、老女でもいわゆる女中等で買われていく。
速やかに祖国日本に天皇陛下の統治の下、秩序を取り戻して、人身売買を禁止し、ポルトガル商人が日本人を買い付けていく事態を阻止せねば。
そのためには、マラッカをポルトガルから奪還し、南シナ海からポルトガル商人を排除せねば。
上里少尉は若さもあり、そう堅く決意して、山下奉文中将や近藤信竹中将への直訴を決めた。
そして、張敬修と張娃の話をまとめて、上里少尉は報告書を作成し、山澄貞次郎大佐に提出した。
更に、皇軍上層部にそれは提出されて、この後の皇軍の当面の戦略策定根拠になった。
そんなことが「妙高」の艦内ではある内に、マニラを出港して4日間の航海をして、皇軍、日本艦隊と輸送船団は、那覇に近づいた。
「取りあえずは、那覇港を目指すか」
この小艦隊の指揮官となった高木武雄少将は、那覇港を目指した。
この艦隊、船団を見た琉球王国上層部は、パニックを引き起こした。
何しろこれまで見たこともない艦隊、船団が、急に自らのおひざ元に現れたのだ。
この辺り、取りあえずは活動報告に書きますが、奴隷と年季奉公、労働者について、どのようにその人が考えるか、という観点も絡んでくる話でして。更に言えば、下手をすると、ネットで大炎上するネタで、ガソリンを被って火事場に飛び込む想いをしながら、私は今回の小説を書いてはいます。
(自分からガソリン被って火事場に飛び込むと分かりながら、過去に赴く話を書くな、と言われかねませんが、ネット小説作家の端くれとして、ガソリンを被ってでも火事場に飛び込む想いで私は描くのです。
他のネット小説作家の方々も、全員が同様だろう、と私は推察してます)
つい大上段に振りかぶって書きましたが。
ここでいう「糸満売り」等の話は、言うまでもなく21世紀の現代にはありません。
上松少尉は、基本的にこの世界の1941年からこの世界に赴いているのです。
「糸満売り」等は、いわゆる琉球政府によって1950年代には無くなっていますので。
その旨をご了承くださるように、平にお願いします。
ご感想等をお待ちしています。