第13章ー28
「これが軍人、武人のするやり方、いや生き方か」
「全くだ。ふざけるにも程がある。戦になれば死闘するのが当然だ。そして、勝てばヨシ、武運拙く負けて死ぬとも、それが軍人、武人としての誉れなのではないか」
「砲撃を数発、浴びただけで、敗走するは、停戦申し入れをするわ。コーッテ王国の軍人は、軍人、武人としての恥を知れ」
コーッテ王国からの停戦申し入れを聞いた瞬間、上杉景虎少尉と吉川元春少尉は、お互いに激怒して、コーッテ王国軍の面罵を、上記のような口ぶりで陰でしあってしまっていた。
そして、この二人と同様、いや似たような想いを、戸次鑑連中佐が指揮する独立歩兵大隊の面々の多くがしたのだが。
その一方で、賢い遣り口だ、と少し冷めた眼を向けた者が多くいたのが、鬼庭良直中佐が指揮する独立歩兵大隊の面々だった。
「自分が、コーッテ王国軍の指揮官でも、同様の判断を下したな」
「これは、お館様らしからぬ物言いですな」
「お館様と私を呼ぶな。わしは武田家から、一応は追い出された身だからな」
「ごもっとも」
武田晴信大尉は、内藤昌秀大尉とそんなやり取りを陰で交わした。
その二人のやり取りを、口を挟みたそうに山県昌景少尉は見ている。
それに気づいた武田大尉は、山県少尉に声を掛けた。
「何か言いたいことがあるようだな」
「ええ。何故に停戦申し入れが正しいような言い方をされているのです」
山県少尉は、言外に不服があるという態度を示していた。
山県少尉は、どちらかというとだが、武人、いや猛将という雰囲気を漂わせる人物でもある。
実際、山県少尉の指揮する歩兵小隊は、山県少尉に似て、それこそ率先して先陣を務めたがる者が多数を占める有様になっている。
その山県少尉にしてみれば、コーッテ王国軍の態度は軽蔑されて当然の代物だった。
「うむ。軍人としては、山県少尉のように想って当然だ。だが、政治家として考えるとな」
武田大尉は、それとなくコーッテ王国軍の態度を認める口振りを示した後で続けた。
「コーッテ王国軍の態度は、日本にとって悪くないどころか、有難い代物だろう」
「有難い代物ですか」
山県少尉は、不遜と想ったが、思わず言ってしまった。
「ああ」
武田大尉は、山県少尉に説明というよりも、説得をする羽目になった。
コーッテ王国が、あくまでも日本と戦うという姿勢を示したならば、日本はコーッテ王国の領土の奥深くまで攻め込まざるを得なくなる。
コーッテ王国が現在、セイロン島内で抑えている土地は2割余りと言ったところだが、豊かな土地が多いので、国力的にはセイロン島全体の3割を抑えていると言ってよい。
何しろセイロン島は広いのだ、後方部隊まで入れても約5千に過ぎない日本軍の兵数では、とてもコーッテ王国の領土を制圧する力は無い。
だから、コーッテ王国が取りあえずは停戦、将来的には日本の友好国になりたい、と暗に言って来たのは有難く受けるべきなのだ。
武田大尉の諄々とした説得、説明の前に、山県少尉も最後には肯かざるを得なくなったが。
それでも、一抹の不安を山県少尉は覚えた。
コーッテ王国が、そう易々と日本側に寝返るのだろうか。
武田大尉は、山県少尉の不安を察したのだろう。
更に言葉を継いだ。
「恐らく、コーッテ王国も二股を掛けているのだろう。インド本土等からポルトガルの援軍が駆けつけて来た後で後詰決戦が行われるのでは、とコーッテ王国は推測しているのだ。だから、日本軍に停戦を申し入れたのだろうな」
それは許し難い所業では、と山県少尉は言いかけたが、武田大尉の言葉が早かった。
「だが、その前にコーッテ王国はより日本に味方するかの決断を迫られるだろうな」
武田大尉はどこかを見ていた。
武田大尉の内心の考えに触れるのは、少し先になります。
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