第13章ー22
こうして、セイロン島南部を迂回して、コロンボを海上から日本軍は急襲する、という基本方針は決まったが、それでも他の士官を参加させて、お互いに問題を検討する内に、幾つか懸念、心配が出てきた。
「キャンディ王国からの情報によると、セイロン島南部のゴールに、ポルトガル軍は拠点を築きつつあるということです。どの程度のものか、詳細をキャンディ王国は掴んでいませんが、完全な放置は良策でない、と考えざるをえません」
北条綱成少佐が、そう提言した。
これに対して。
「コロンボを急襲する、という発想は悪くないが。ゴールという拠点を放置しては、その発想が成り立たなくなる可能性がある。ゴールを我々は潰しておくべきではないか」
戸次鑑連中佐が、その意見に賛同したことから、話が最初から進まなくなった。
実際問題として、戸次中佐や北条少佐の主張も、半ば当然の主張と言える。
何しろ、日本軍には、セイロン島のいわゆる土地勘が無いのだ。
そうしたことからすれば、懸念が先立つのも当然だった。
そして、他の士官達の意見も、徐々に噴出しだした。
何しろ、日本国内での実戦経験がある面々が、それなりにいるとはいえ、外国で戦うのは初めて、という士官揃いである。
多くの者が、外国での事実上の初陣になるという興奮と、初めての外国での戦闘の懸念から、積極的、消極的双方の意見に右顧左眄といってよい心境になるのは、どうにも無理が無かった。
例えば、太田資正大尉が、
「この際、ゴールは無視して、ポルトガル軍の最大の拠点コロンボを目指しましょう。コロンボさえ落ちれば、ゴール等は熟柿が落ちるように陥落するでしょう」
と慎重論を唱える北条少佐を、暗に非難するかのような意見を言えば。
柴田勝家大尉が、
「いや、ゴールを鎧袖一触で屠って、我々の初陣を飾り、敵の士気を下落させるべきだ。ゴールの要塞化はまだまだ進んでいない、と思われる以上、今のうちに攻めるのこそ、最上だ」
と積極的な意見を言う有様となった。
暫く思い思いの意見が、半ば噴出していたが。
そうは言っても、戦国の世を見聞きし、一部には実戦経験さえある将帥が、この場には集っている。
そのため、徐々に意見は集約され、まとまることになった。
最終的な作戦案としてまとまったのは。
ゴールを攻撃してみて、その防御を確認する。
鎧袖一触で落ちれば、それでよいが、落ちないようなら、歩兵中隊1個か、2個を攻囲隊として残置し、残りはコロンボを目指すという案だった。
なお、鎧袖一触で落ちた場合、ゴールの防御拠点は、すぐには再使用できないように、ある程度は破壊しておくことになった。
本来から言えば、ゴールを偵察し、その上で攻撃するべきだった。
だが、地理不案内なことと、少しでも早くという観点から、このようなことになった。
何しろ、ゴールの詳細な場所や状況さえ、日本軍の手元には情報が無かったのだ。
セイロン島全体の大雑把な地図が、日本軍の手元にはあったが、その地図ではこの辺りということしか分からないとしか、言っても過言では無い状況だったのである。
(より詳しく説明すると、例えば、九州を舞台とした仮想戦において、一方の攻撃側の軍の手元に、九州全域図しかない状況で、熊本市の場所は分かっても、熊本市で市街戦を戦う計画が、福岡に上陸したばかりの攻撃側の軍に立てられるか、というと。
更に言えば、熊本市の詳細な状況が不明な状況では。
攻撃側としては、熊本市まで進軍してみないと、どう戦うかの計画が立てられないのは、半ば当然の話になるのは止むを得ない話だった)
このような状況から、様々な準備に時間がかかり、7月下旬に日本軍は、トリンコマリーから出撃した。
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