第13章ー16
そういった話し合いをしている間に、それこそ日が暮れてしまった。
どちらからともなく、続きは明日、という話になり、日本軍の面々は、キャンディ王国が手配した宿舎に戻って、泊まることになった。
そして。
「これが、セイロン島の香辛料を使った料理か」
「本当に、色々と香辛料を使った料理も、国によって違いますな」
「それにしても、この味は、どことなしにカツオ節を思わせる味がどこかありますな」
鬼庭良直中佐、北条綱成少佐、真田幸綱少佐は、宿舎で提供されたセイロン島の料理に舌鼓を打ったが。
その料理の中に忍ばされたカツオ節の親戚、モルジブフィッシュの味に思わず郷愁を誘われた。
何故にこのような事態が起きたかというと。
皇軍の来訪によって、史実では江戸自体に広まった改良型のカツオ節の製法が、日本国内にもたらされ、それは徐々に日本の国内に広まりつつあった。
そして、その最大の顧客は、皮肉にも陸海軍の面々だった。
陸海軍の幹部にしてみれば、少しでも昭和の味を味わいたかったのだ。
そのために陸海軍に入った面々も、カツオ節の味を味わうことになった。
(また、この影響から、昆布等も徐々に日本国内に普及することになった)
皇軍来訪から約10年が経ち、日本国内の食生活の風景も、徐々にだが変わりつつあったのだ。
3人共、そうした味の変化を徐々に感じた身だったが、まさか、セイロン島で饗された異国料理に、カツオ節の味がするとは。
万里波濤を超えた味に、思わず遥か離れた日本を想い起こした次第だった。
もっとも、3人共に軍人が本来の職務である。
夕食を終えた後、今後の作戦について詰めて考えることになった。
「私が、キャンディ王国に腰を据えて、睨みを利かせましょうか」
まず、北条少佐が提案した。
「うむ、それが無難だろうな」
他の2人も賛同した。
キャンディ王国は好意的なようだが、万が一ということもある。
それに、キャンディ王国が他の国から侵攻を受けた場合に、それに対処する必要もある。
また、損害が多く出た場合に備えて、予備の部隊を残しておくのは、戦場の基本である。
そうしたことからすれば、日本軍の実戦部隊を、ある程度はキャンディ王国に残さない訳には行かない。
更に言えば。
「ここで、それなりの物資をやや高値で購入して、現地調達することで、キャンディ王国の住民との間の軋轢を少しでも減らした方が良いでしょうな」
真田少佐は、そう提案した。
「それは良い考えだ」
鬼庭中佐が賛同し、北条少佐も同意した。
段列(補給)部隊は、シンガポールやバンダアチェから、それなりの物資を運んできてはいる。
しかし、戦闘が長期化するとなると、物資の欠乏は避けられない。
一応、キャンディ王国政府が便宜を図ってくれることにはなっているが、その際に日本軍が安値で買い叩いては、キャンディ王国政府や住民からは、よく思われないのは当然である。
逆に日本軍が、高値で買えば、住民も気持ちよく売れるし、王国政府も自分の懐が痛まないので、便宜を図ることを躊躇わないだろう。
ともかく、異国の言葉が違い、風習も違う所にいるのだ。
住民に反感を持たれ、下手をすると襲われるような事態に陥ることは、何としても避ける必要がある。
そして、物資をそれなりの高値で購入すると言うのは、日本軍は、いわゆる良いお得意様だとして、住民からの反感を減らす一助になる筈だった。
「ということは、北条少佐率いる独立歩兵大隊1個と、段列(補給)部隊の司令部は、ここに残しておくということで良いか」
鬼庭中佐は、他の2人に確認を求め、他の2人は同意した。
「そうなると、前線に赴けるのは2個大隊か」
鬼庭中佐は、今後の作戦について考えを巡らせた。
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