第13章ー5
とはいえ、流石にいきなりキャンディ王国と同盟締結と言う訳には行かない。
それなりの事前連絡を、外務省や海軍側が行っていたが、現地の陸軍には、詳細がまだ明かされてはいない段階だったのだ。
真田兄弟が既述のような会話をしていた頃、キャンディ王国が確保している港からの出航を、無事に果たした児玉就方海軍中佐は、艦長室でほっと一息ついていた。
日本本土から派遣された外交官を送り届ける任務に当たっており、キャンディ王国との友好関係締結任務に何とか成功した、と外交官から報告を受けたことから、帰国のための出航ができたのだ。
ろくな通訳人がおらず、中国語が分かる外交官で間に合わせる始末だったので、話が無事に通じるのか、と不安を抱えながらの任務だったが、無事に果たせてよかった。
よく知らない異国での任務は、それなりに気を使わねばならない。
それにポルトガルの軍艦とぶつかって、闘う可能性もある。
まだまだ気を許せないとはいえ、帰途につけたというのは、児玉中佐にしてみれば、一山越えたという想いがしてならないことだった。
それにしても、日本国内が、皇軍来訪から「天文維新」により、急に統一されたと言うのは、色々と人事的におもしろいというか、気苦労というか、そんな事態を引き起こしたものだ。
児玉中佐は、当直で監視任務に当たっているある少尉の姿を脳裏に思い浮かべていた。
その少尉、大友義鎮は、夜の闇もあり、徐々に見えなくなっているセイロン島の姿を脳裏に焼き付けようとしていた。
また、セイロン島に来ることもあるだろうが、この時に覚えておかないと、帰国した後で後悔するような気がしていたのだ。
それにしても、自分が海軍に入るとは、そして豊後と筑後の守護を務める大友家の御曹司として産まれた自分が、このような立場になるとは、何とも「天文維新」の影響を改めて考えてしまうな。
そんなことを、大友少尉は考えていた。
艦長を務める児玉中佐に、個人的に含むところは全くないが、本来の血筋から言えば、児玉中佐は、安芸の国人、毛利家の家臣に過ぎない。
それこそ、皇軍来訪が無ければ、「天文維新」が無ければ、それこそ、児玉中佐の方が、自分に対して当然に頭を下げる立場ということになる。
毛利家は、防長等の守護を務めていた大内家に従属しており、大内家と大友家が、ほぼ対等と言える立場にあったことから考える程、児玉家は、大友家よりかなり格下になる。
だが、今は。
共に海軍士官となった身であり、自分は海軍少尉で、向こうは海軍中佐なのだ。
当然に自分の方が頭を下げ、敬礼せざるを得ない。
それでも、直接に関わりが無かったので、ある意味、マシな話になる。
もし、自分が陸軍に入っていたら、戸次鑑連中佐が上官ということになりかねないのだ。
それは流石にお互いに。
大友少尉は、以前、戸次鑑連に今後の身の振り方を相談した際のことを想い起こした。
「戸次殿、この際、大友家を事実上出て、陸軍か海軍に入ろうと思うのだが、どう思う」
「そうですなあ、海軍にお入りください」
「どうしてだ」
「申し訳ありませんが、元の主筋を部下として使うのは、私は御免被ります」
「成程な。それでは海軍に入るか」
自分の問いに、戸次は半ばおどけて答えた。
というか、おどけざるを得なかったのだろう。
父が異母弟を偏愛しており、大友家を異母弟に継がせたい、と考える余り、朝廷にまで働きかけているのを、自分は察していた。
これは下手をすると、大友家を潰しかねないことなのだが、父は分からなくなっていた。
(この事が起きた1540年代の頃は、各地の国司等の有力家に、お家騒動が起きた場合、朝廷はそれを理由に有力な家を潰していたのだ)
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