第13章ー4
そういったことを含めて、真田幸綱少佐は、実弟でもある矢沢頼綱大尉に現状を説明したが。
最後に近くなると、兄の説明の丁寧さに、矢沢大尉の方が(内心で)あくびをかみ殺す羽目になった。
そういったことから。
「それで、結局のところ、セイロン島攻略作戦を発動するとして、どこと手を組むのだ」
矢沢大尉は、自分でも不躾とは思ったが、結論を早く言ってくれ、という想いから、兄に直言した。
「色々と考えたが、セイロン島の東中部に勢力を張るキャンディ王国と日本が手を組むのが妥当だ。いきなり、同盟を申し入れることに近い事態が生じるが、まずは受け入れられる筈だ」
真田少佐は、歴戦の士官と言うより、謀略家に近い雰囲気を漂わせながら言った。
「いきなり、同盟を申し入れて受け入れられるのか」
流石に、兄の言葉に矢沢大尉は疑問を覚えた。
「大丈夫だ。歴史的な経緯がある」
真田少佐は自信満々に言った。
それこそ自身が、歴史的な経緯に翻弄された身である。
自分の経験からも自信を持って言える話だった。
(少なからず横道にそれるが。
真田少佐が、そのように言った自身の歴史的な経緯を述べる。
元々、真田家は信濃小県郡で勢力を持っていた滋野一族の分家筋になる。
そして、1541年の海野平の合戦で、これまでの行きがかりから滋野一族は、敵対関係にあった武田、諏訪、村上連合軍に大敗し、滋野一族は小県郡から逃れる羽目になった。
当時の真田少佐は、旧領奪還を策していたが、そこに起きたのが、皇軍の来訪である。
そして、皇軍は信濃においては現状をほぼ追認した。
その一方で、武田家では内紛が起き、武田信虎に続き、晴信まで追放され、信繁が甲斐国司になるという事態が起きてしまった。
こうした現状に鑑み、旧領奪還を諦めた真田少佐は実弟の矢沢大尉と共に、陸軍士官への転職を果たした次第だったのだ)
「お前が飽きているようだから、話を思い切り端折るが。私が把握している情報に基づいて話すと、15世紀半ばにシンハラ民族で仏教を事実上の国教とするコーッテ王国が、セイロン島全土を支配していた。とはいえ、地方の分離独立の動きが強く、他にも民族、宗教の対立もあって、15世紀後半には北部ではタミル民族でヒンドゥー教を事実上の国教とするジャフナ王国が復興し、内陸部ではキャンディ王国が独立するという事態が起きた。なお、キャンディ王国も、シンハラ民族で仏教を事実上の国教としている」
真田少佐は、そこで一息入れた。
「それで」
「そういった状況下にあったところに、16世紀初頭にポルトガル人の来訪がセイロン島にはあった。更にポルトガル人はキリスト教、カトリックの布教をセイロン島で行ったが、こういったことは、仏教徒からもヒンドゥー教徒からも反発された。更に、コーッテ王国では王位継承をめぐる争いが起き、3つに分裂してしまったようだ。ライガマ王国とシーターワカ王国が、コーッテ王国から分離独立した」
「そう言った状況で、ポルトガルは当初はキャンディ王国と手を組んでいたのだが。王位継承をめぐる争いから弱体化したコーッテ王国が同盟を求めてきたことから、キャンディ王国との同盟を破棄し、コーッテ王国との同盟にポルトガルは、最近では切り替えたらしい」
「成程、裏切られたキャンディ王国にしてみれば、対ポルトガル戦に逸る理由は充分ある訳か」
真田少佐の長広舌に、少し辟易していたこともあり、矢沢大尉は口を挟んだ。
その答えを聞いた真田少佐は肯いた。
「そういうことなら、キャンディ王国と日本が同盟するのは容易なようだが」
矢沢大尉は、心配そうな口ぶりを敢えて出した。
「何とかやるしかないだろう」
真田少佐は腹を括っていた。
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