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第90章―3

 そんな大騒動が、義父(今上(後水尾天皇)陛下)と伯父(九条幸家)の間で引き起こされているのを知る由も無く、ほぼ同じ頃に上里松一は義理の甥になるといえる広橋正之と同居していることもあって、上里清の自宅で人類初の月面到達について語り合っていた。

(松一は上里清の養子だが、正之の養母の広橋愛は上里清の義子になるため、二人は義理の叔父甥の関係になるのだ)


「本当に人類が月面に到達するのを見られるのですね」

「小説等の様々な出版物で月面到達は描かれては来ましたが、現実に見られるとは思いませんでした」

 松一と正之は、お互いに少し夢見るような口調で語り合わずにはいられなかった。


 尚、正之は1601年生であるのに対し、叔父になるとはいえど、松一は1610年生であり、松一が正之に敬語を使って当然なのだが、千江皇后陛下の異母弟になる等の正之の様々な血縁は置いておくとして、正之は平民なのに対して、松一は次期摂家の当主であり、従五位下の官位持ちになる。

 そうしたことから、松一と正之はお互いに敬語で語り合う事態が起きていた。


「それにしても、中宮陛下の出産と相前後して、人類初の月面到達が果たされるとは思いがけないこととしか、本当に言いようがありませんね」

「それこそ、月面に到達した宇宙飛行士からも、中宮の出産については、お祝いの言葉が贈られそうな気が私はします」

 叔父甥の話は更に深まったが、松一はまるで他人事のように実母の中宮の出産を語る。

 その言動は、正之の癇に妙に触ったことから。


「まるで他人事のように言っていますが、中宮陛下は貴方の実母でしょう。更に言えば、今でも義姉になる身だ。そんな風に異父弟か、異父妹が産まれるのを他人事のように言えますね」

 想わず正之は、年下の叔父を責めるようなことを言ったが、松一にしても少し屈託が溜まった末のことで、身内ということもあって、少し腹の内をぶちまけたくなってしまった。


「絶対に秘密にして下さい。中宮の子ですが、一人ではないようなのです」

「えっ」

 松一の言葉に、さしもの正之も思わず絶句した。


(既述だが、この世界では流石に表立たなくはなっているが、双子以上の出産を「畜生腹」として忌み嫌う人が多いという事情がある。

 だから、中宮が双子以上を産むというのを、素直に喜べない人がそれなりにいるのだ)


 少し時が流れて、気を取り直した正之が松一に口を開いた。

「双子だというのですか」

「いえ、それ以上です。出所は明かせませんが、恐らく5人前後と聞いており、恐らく私の父との間の子よりも、今上陛下との子の方が多くなる可能性が高いと聞いています」

 松一は声を少し潜めて言い、今度こそ正之は呆然とするしか無かった。


 尚、この情報をどうやって松一が入手したかだが。

 文子内親王殿下の協力あってのことだった。

 文子内親王殿下は3歳前後の頑是なさである。

 だから、周囲の宮中女官や侍医にしても、文子内親王殿下には気を許しがちになる。


 それで、松一が文子内親王殿下に、中宮のお産のことを聞くことが増えると、文子内親王殿下も興味を持って、周囲の宮中女官や侍医にそのことを聞いて回るようになった。

 更に文子内親王殿下に気を許した宮中女官や侍医は、断片的な情報を文子内親王殿下に話すようになり、それらが松一に伝わったのだ。

 そして、松一はそういった断片的な情報を組み合わせて、そこまでの情報把握に至った次第だった。


「聞いてはならないことを聞いてしまったようですね」

「その通りです」

 さしもの正之も気を取り直した後で、呟くように言わざるを得ず、松一は短く答えた。


「本当に色々と大騒動が起こりそうだ。話を変えましょう」

「そうしましょう」

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― 新着の感想 ―
年下の叔父をいじっていたら、聡明な叔父に大逆襲された正之さん。確かにこれは驚きます。これ以上突っ込まなくてお互いに賢明。
 10代らしからぬ妙に達観した歳上の甥と歳下の叔父の会話( ̄∀ ̄)まあ正之さんは出生から物心つく頃までの激動、そして松一くんは信尚さん亡き後の怒涛の展開と並みの人間なら押しつぶされヤサグレそうな経験を…
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