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第88章―18

 そういった段階を踏んで、この世界においての月面到達は目指されたのだが、完全に万事順調、という事態が起こらないのも当然のことだった。

 細心の注意が払われて事前準備等が行われた上で、実際の行動に移されていったとはいえ、そうは言っても、それこそある程度のリスクが覚悟の上で、この時代の月面到達が目指されるのは、どうにも止むを得ないこととしか、言いようが無かった。


 完全にリスクが無い、と断言できるだけの準備を調えた上で、月面到達を目指すべきだ、と言われて当然のことではあるが。

 そうは言っても、(この世界の)1620年代初頭に、人類を月面に到達させようとなると。

 ある程度のリスク覚悟で物事を断行するのは、止むを得ないこととしか、言いようが無かった。


(尚、この辺りは現実世界のアポロ計画も大同小異としか、言いようがない。

 色々と万全の準備等が為されることによって、アポロ計画によって月面到達が果たされた、という言説が完全に罷り通っているが、それならば何故にアポロ13号等の事態が引き起こされたのか。

 勿論、それは結果論だ、と言われれば、その通りだが。

 ある程度のリスクが覚悟された上で、現実世界のアポロ計画は断行されたのだ)


 そして、前話で少し述べた第一段階と第二段階の無人での実験だが。

 無人ということもあって、犠牲者こそ出なかったが、それなりどころではない試行錯誤が行われることになった。

 どうのこうの言っても、無人である以上、急なトラブルが起こった際に、宇宙船内にいる人員による対応は不可能ということになるからである。


 更に言えば、第二段階の最終試験では、それこそ月面到達用に開発された三段ロケットが初めて実際に打ち上げられる事態が起きた。

 そして、この三段ロケットが如何に強力だったのか。

 それを物語る逸話が、それなりに後世にまで伝わることもなった。


 実はこの月面到達用の三段ロケットが実際に打ち上げられるまで、ロケット打ち上げ時の騒音等はある程度は止むを得ないことだとして、特別な対策が取られてはいなかった。

 実際にそれこそ戦場での銃砲声がうるさい、何とかしろ、と多くの軍人が言わないように。

 ロケットの打ち上げ時の騒音等は甘受するしかない、というのが、この当時の常識だったのだ。


 だが、実際にこの月面到達用の三段ロケットが発射された際の事態は、甘受できるものではなかった。

 この月面到達用の三段ロケットの発射を録画放送するために、実際に三段ロケットが発射される場所から7キロも離れたところに、録画放送するためのスタッフ等が待機していたのだが。


 発射時の余りの騒音の為に、発射を録画中継しようとするスタッフの声は発射時には全く聞き取れず、更にはロケット発射に伴って生ずる様々な振動は、完全に激震としか言いようがなく、様々な放送機材に損傷を与えることになった。

 こういった次第で、一部の録画には成功して、何とか録画放送は出来たものの、公式報告でも、この件について、録画放送は事実上は失敗した、というしかない事態が引き起こされたのだ。


(幸か不幸か月面到達用の三段ロケット打ち上げには成功しており、それもあってこの失敗が問題視されたのだ)


 そうしたことから、流石にこれは不味い、という意見がトラック基地内外から高まることになり。

 実際の月面到達用のロケット発射の際は、燃焼ガスの下に1万リットルを優に超える水を放出して騒音を低減させる事態が、トラック基地では起きることになった。

 更に言えば、それを見習って、各国のロケット基地では、ロケット発射の際に似たような方法を講じることで、騒音や振動を軽減しようと努める事態が起きることにもなったのだ。

 尚、この辺りはサターンⅤロケットが最初に打ち上げられた際の話が元ネタとしてあります。

 今回、それを少し捻って使いました。


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― 新着の感想 ―
サターンvの発射時騒音は、航空機1万機分とか。これじゃ、種子島では無理ですね。 トラック島は種子島よりずっと赤道にも近いしいろいろ有利です。羨ましい。
 (´⊙ω⊙`)サターンの打ち上げ前のべらぼうな水散布(時間辺りの瞬間水量は増水時のナイアガラに比肩する)は知ってたけどそれが無い状態で打ち上げ試験をやっていた事実は知らなかった(´Д` )地面に並行…
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