第12章ー15
そして、当然のことながら、オスマン帝国の官吏は、日本のこの新型銃(後装式ライフル銃、史実で言えばスナイドル銃の半コピー)を購入しようとしたのだが。
アガバ港に残されていた日本の使節団の長に任命されていた飛田健二郎提督には、これに対して間違ってはいないが、巧妙な言い訳方法が予め準備されていたのだ。
「確かにこの新型銃を日本からオスマン帝国にお売りする許可が、日本政府からはオスマン帝国への友好の証として予め出ておりますが」
飛田提督の言葉に、オスマン帝国の官吏のほとんどが好意を覚えたが、次の言葉に失望した。
「しかし、この新型銃には牛に加えて豚の脂が、湿気対策に大量に使われています。そのような銃をオスマン帝国の軍隊が装備していいのでしょうか」
言うまでもないことかもしれないが、イスラム教徒にとって、豚は穢れた動物であり、豚の脂に触る等、いわゆる以ての外のタブーということになる。
(更に言えば、ヒンドゥー教徒にしてみれば、牛は聖なる動物であり、牛の脂が使われた銃を使用する等、イスラム教徒とは逆の意味で、以ての外のタブーということになるのだ)
更に、日本の使節団は、この新型銃には、大量の豚(や牛)の脂が使われていると高唱した。
イスラム教徒にとって、豚がタブーなのは事実だが、それを異教徒に押し付ける等、偏屈ではない。
だから、異教徒の日本人が、豚の脂を使った銃を使用することに文句は言えなかったが。
自分達が、その銃を購入して使用できるのか、というと完全に別の話である。
だから、日本の新型銃の購入を、オスマン帝国の官吏はあきらめざるを得なかった。
(オスマン帝国の官吏の一部は、それでも日本の新型銃を何挺か購入して、豚の脂を使わずに製造できるのか試すべきだ、とまで主張したが。
実際に誰がやるのか、という問題を持ち出されると、沈黙せざるを得なかったという)
また、日本の使節団が乗ってきた帆船についても、見る人が見れば、かなりの高性能なのが分かる代物であり、また、搭載している火砲の試し撃ちは、オスマン帝国の軍人の肝を冷やさせる代物だった。
こうしたことから、アガバ港で半ば監視も兼ねて、日本の使節団の対応をしているオスマン帝国の官吏の面々は日本との同盟を進めるべきであるとの意見を、相次いで首都コンスタンティノープルにいる皇帝スレイマン1世に送る事態が生じた。
こういったアガバ港からの意見と、また、最愛の后であるロクセラーナからの言葉もあり、スレイマン1世は徐々に日本との同盟締結に気持ちが動き出した。
実際問題として、ポルトガルとのインド洋における(戦争というには小規模過ぎる)抗争において、ポルトガルによる紅海封鎖を、オスマン帝国はほぼ阻止できているとはいうものの、それでもオスマン帝国に物資を運ぼうとする商船が、ポルトガルの軍艦に襲われるのが絶無とは言い難い。
こういった状況において、日本という強力な大国が、オスマン帝国と手を組みたい、そして、ポルトガルと戦おうといっているのだ。
日本とオスマン帝国が手を組めば、それこそインド洋からポルトガル勢力を一掃するのも不可能どころか、十二分に可能な話である、とスレイマン1世には思えだした。
では、どのような条件で日本とオスマン帝国は手を組むべきか。
スレイマン1世がそう考えだしたことから、1月程、日本とオスマン帝国との外交交渉は停滞していたのだが、徐々に同盟締結に向け、話が動き出した。
スレイマン1世は、腹心の部下であり、娘婿である大宰相リュステム・パシャを、日本との外交交渉担当にすることを決断した。
そして、岩畔豪雄使節団長は、率先して同盟締結につき話し合った。
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