第85章―11
立花宗茂らは、軍人、兵の第一の心構えを、袁崇煥らの明帝国軍の将帥に説く一方、基本と言えば基本だが、飴と鞭の組み合わせで、協力して明帝国軍の規律向上を図らざるを得なかった。
まず、飴について述べるならば。
「部隊長に成れば、自活できるだけの月給がきちんと貰えるのですか。頑張ります」
「兵のままでも、退役時には当面は食べられる退職金が出るとは。頑張ります」
そんな声が明帝国軍の将兵の間で上がることになった。
そうこれまでの明帝国軍の将兵の待遇は酷いモノだった。
暴政が続いた結果、将兵の給料は極めて低く、又、遅配は当たり前。
そう言った事情から敵と裏で通じて、賄賂を貰って、八百長戦をやることさえ当たり前、時としては掠奪行為に将兵は手を染めるので、流賊に遭うよりも明帝国軍に遭う方が酷い目に遭うぞ、と民が歌うといってよい状況だったのだ。
何しろ。そうしないと明帝国軍の将兵は食べていけない、と言っても過言では無かったからだ。
だから、こういった将兵の処遇が大幅に改善されたことは、軍の将兵の規律を改善することになった。
(尚、兵には給料が無く、退職金という扱いに成ったのは、財政面の問題もあったが、もう一つ、後述する事情があったからだ。
この問題の解決にも、明帝国軍は苦労することになる)
そして、兵の衣食住といった処遇も改善されることになった。
「きちんとした兵舎が建築されるとは」
「資材は無償で提供された代わりとして、自分達で造らないといけないがな」
「工作兵の出番だぜ」
「お前ら、歩兵も土台作りとかやるんだぞ」
そんな会話が現場では交わされた末に、雨や雪、暑さ寒さに耐えられる兵舎が建設された。
食事にしても。
「きちんと米や麦、肉や魚に野菜と揃っていて、しっかりと三食共に量がある」
「その代わり、しっかり食わねえと(訓練で)身が持たないぞ。途中で辞めたら、退職金が無いぞ」
そんな会話が、兵達の間で交わされた。
衣類にしても。
「ぜい沢を言えばキリがないが、暑い中、寒い中でもそれなりの軍服が無料で、兵の俺達にまで提供されるようになるとは」
「特に北方の地で警備する際の帽子付きのコートは有難い。暖かくなるようにと、裏地に羊毛が兵のコートでも使われているとは」
そんな会話が現場では交わされた。
こういった飴、様々な処遇等の改善は、明軍の将兵の士気を高めることになった。
その一方で。
「気を緩めるな。体力を付けろ。更に、様々な訓練に耐えるんだ」
「疲れたからといって、すぐに休めると考えるな。夜には読み書き算盤を学ぶんだ」
そんな感じで、兵に対する怒号が現場では飛び交う状況に成った。
立花宗茂や武田信勝らは、袁崇煥らの明帝国の将帥に対して、兵の訓練、教育を重視を伝えて、それに明帝国の将帥らも全面的に同意した。
きちんとした教育を真面目に受け、猛訓練を耐え抜いて精兵になれば、きちんと退役時に退職金が貰えるが、それをサボっては、教育や訓練に何れは付いていけなくなり、途中で退職金ナシで軍から放り出されかねない。
そういった危機感を、教育や訓練を通じて、兵に対して植え付けることにしたのだ。
そして、明帝国軍の兵は、こういった教育や訓練の中で、ふるいに掛けられていくことになった。
真面目に教育や訓練を受けていく内に、多くの明帝国軍の兵が衣食住等の処遇の改善や退職金の存在も相まって更生し、派遣された日本軍の将帥から見ても、これならば、第一線の兵として戦えるようになるだろう、と徐々に見られていくようになったが。
そうはいっても、少数の兵は、こういった教育や訓練についていけなくなり、涙を呑んで途中退役という路を選ばざるを得ない事態が引き起こされた。
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