第85章―4
「新通貨の発行とな」
泰昌帝にしてみれば、どうにも理解できない発想だった。
(これはある意味では当然で、この当時の明帝国において、通貨に関する経済論等、全く存在以前の状況だったと言っても過言では無かったのだ)
「今、我が明帝国は銀本位制度を通貨では執っている、と日本政府の要人は教示して、我々もそれを認めざるを得ませんでした。実際、我が帝国政府に納める税金は銀貨で納めることになっている等、我が国における通貨の基本は銀貨です」
徐光啓らは、泰昌帝に対して説くこととなり、泰昌帝も肯かざるを得なかった。
「ですが、それは現在の世界においては、完全に遅れた通貨制度になりつつあります。諸外国の技術進歩は大量の銀を製造するようになっており、銀の価値は暴落しつつある、と言っても過言ではないのです。裏返せば、銀貨の価値が暴落しつつあるとまで言えます。そして、現在の世界は、金本位制度から管理通貨制度に徐々に移行しつつあります。一応は、世界最大の大国の日本が、紙幣と金の兌換制度を維持していることから、金本位制度が終焉を迎えたとは言い難いらしいですが、時間の問題だろう、と日本政府の要人は自嘲していました。こうした中で、暴落しつつある銀貨を基本とする銀本位制度に、我が国が拘っていては、遅かれ早かれ、色々な意味で国が行き詰まります」
徐光啓らはそこまで泰昌帝に直言して、泰昌帝は目を見開きつつ、考え込むしか無かった。
(細かくやると、小説では無く、論文になりかねないので、かなり以下の説明を端折ります)
徐光啓らにしても、細かくは理解しておらず、かなりは日本政府の説明の受け売りに近かったが。
通貨の価値が暴落しては、それこそ通貨としての信用が無くなる、との徐光啓らの様々な説明を聞くうちに泰昌帝はその内容に驚きつつ、その説明を理解する内に自らも納得せざるを得なかった。
例えば、1元で米1石が買える筈が、どんどん通貨の価値が暴落して、1年後には1元で米1合しか買えなくなっては、そんな通貨を誰が信用するだろうか。
そして、銀の価値は世界中で暴落しつつあるのだ。
銀貨を貨幣の基本とする銀本位制度を明帝国が維持していては、遅かれ早かれ明帝国の通貨は大幅に信用を失って、銀貨での納税等は不可能になり、明帝国の経済は崩壊するだろう。
それを避けるとなると、明帝国も金本位制度に移行し、更には管理通貨制度を採用せざるを得ない。
だが、その一方で、明帝国の現状からすれば、それは様々な意味で困難だ。
明帝国はどうすべきか。
日本政府が提案してきたのが、明帝国の通貨と日本の通貨の固定相場制の採用だった。
日本の通貨と明帝国の通貨の為替相場を固定することで、暗黙裡に明帝国の通貨に信用を付与しようという提案だった。
勿論、これには明帝国にとって様々な不利益がある。
この当時の明帝国政府上層部の面々の多くというよりも殆どが理解できないことだったが、為替を始めとする金融政策において、明帝国政府は独自性を持てなくなるのだ。
だが、その一方で、破綻していると言っても過言ではなく、仮に通貨を発行しても信用が皆無に近い明帝国にとって、日本の通貨と明帝国の通貨の固定相場制が確立できるならば、日本という世界の超大国の通貨が自国通貨の信用の背景になり、国内の通貨流通に多大な効果があると考えられた。
更に明帝国の新通貨の原料だが。
「これは」
「白銅という合金です。一見すれば、銀とよく似た金属です。これで高額貨幣を発行して、低額貨幣については黄銅で発行すれば良いのでは、と日本政府の要人は提案しています。我々も同様の意見です。外見が似通っており、受け入れやすいのでは」
通貨単位として元が出てきますが、全くの架空の通貨単位が、どうにも思いつかなくて、元にしました(本来からすれば、元を遣う筈が無いのですが)。
尚、通貨、貨幣論ですが、小説ということから、説明を端折り過ぎる程に端折っています。
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