第84章―3
とはいえ、あくまでも大日本帝国憲法改正について、更にはその中でも衆議院の優越について、総論では賛成と言う段階に漕ぎ着けてはいる。
だが、各論レベルになると、流石に血の雨が降るようなことは無かったが、各人の主張の中で、激論が交わされる事態が起きるのが当然としか言いようが無かった。
そして、お互いというよりも、各人の改憲案が叩き台として周囲の面々にさらされた上で。
結果的にだが、伊達政宗首相と鷹司(上里)美子尚侍は、美子の実母にして義姉であり、更に伊達首相の公設第一秘書になる広橋愛を介して、お互いの主張の妥協点を探ることになった。
何しろ、単に論争を続けていては、絶対に改憲は進まない事態が起きるからだ。
更に言えば、タイムリミットまで決まっている改憲問題だった。
美子にしてみれば、大日本帝国憲法改正を無事に果たした上で、中宮として入内したかった。
そうすれば、ローマ帝国や北米共和国、更に他の国々の政府上層部は、美子を恐るべき政治家として認識することになり、日本の宮中にちょっかいを掛けよう等、金輪際、実行するどころか、考えることさえも当面の間、忌避することになる、と美子は考えていたのだ。
(実際、この美子の推測は、後知恵混じりになるが、極めて正しかった。
この時の美子の剛腕は、各国政府の上層部に、日本の宮中には絶対に手を出すな、という畏怖を後々まで残す事態が引き起こされることになった)
又、同床異夢と言えば同床異夢だが、伊達首相にしても、美子が入内するまでに大日本帝国憲法改正を果たしたいと考えていた。
何故かと言えば、美子は確かに恐るべき敵といえる存在ではあったが、美子が入内した後となっては、それこそ大日本帝国憲法改正の交渉を伊達首相は誰と行うべきなのか、という問題が起きるのが自明だったからだ。
本来から言えば、美子が入内した後は、九条幸家内大臣らを相手に、伊達首相は大日本帝国憲法改正を粛々と進めていくべきだろう。
だが、九条内大臣は微妙に軽量であり、他の貴族院議員を睨み据えて、自分の意向に無言で従え、とかいう言動は出来ない、と伊達首相は評している現状があった。
(尚、このことは九条内大臣も自認していて、美子もそれを認めていた)
だから、美子が入内するまでに、自分と美子が大日本帝国憲法改正の骨子を固めて、衆議院や貴族院の各議員に対して、改憲案への賛同を呼び掛けるべきだ、と伊達首相は考えていたのだ。
そうなれば、大日本帝国憲法改正は九割方、成功するだろう、とまで伊達首相は考えていた。
そんなこんなが絡み合った末に、広橋愛を主に介して、伊達首相と美子は激論を交わすことになった。
「ともかく予算案に介しては、絶対的に衆議院の先議権と過半数での再可決による成立を認められたい。そうしないと、それこそ臣民、国民生活に多大な影響が出かねない」
「確かに実際問題として、納税を行っている面々等のことを考えれば、予算案については、衆議院の先議権を認めて、更に衆議院議員の過半数での再可決を認めないと、色々と差し障りが出るでしょうね」
伊達首相と美子は、そこまで腹を割ったやり取りをして、この点については合意に達した。
「そして、法律についても、予算案と同様の取り扱いをされたい。法律も国民、臣民の生活に直に影響を及ぼすことが大きいことではないか」
「それは吞めません。というか、過去の衆議院の暴走からして、貴族院議員の殆どが、私の意向に賛同するでしょう。北米独立戦争の発端は何でしたか?日系植民地の自治領化を果たせたのに、貴族院の働きがあったのは公知の事実では」
伊達首相の主張を美子は公然と批判し、否定することになった。
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