第2章ー6
そして、ブルネイ王国の了解を得た上で、史実におけるセリア油田の掘削、開発に、皇軍、大日本帝国陸海軍は取り掛かった。
その掘削、開発には、最終的には数か月が掛かった。
更に簡易の精油資材まで注ぎ込んで、精製されたガソリン、重油等が、セリア油田において、できはした。
だが。
(なお、従前、その近在に住んでいた住民が、油田開発に伴い、退去することへの補償等については、皇軍はブルネイ王国に半ば丸投げして依頼するしかなかった。
何しろ、皇軍が持っている大日本帝国の通貨等は、彼ら、住民にしてみれば、この世界では無価値といわれても仕方なかった。
何しろ、通貨流通、信用の根拠となる国家、大日本帝国が、この世界には存在しない、と言われても仕方のない状況だったからである)
(実際に判明したのは、数か月先、それこそ皇軍の一部が日本本土に帰還を果たしたどころか、大阪湾から京都への進撃を近衛師団が果たしてしまった後になってしまうのだが)少なからず先走った結論から述べると、皇軍上層部の悪い予感が当たってしまった。
セリア油田は、史実というか、過去に皇軍がいた世界のセリア油田と比較した場合、産出する原油の質量ともに皇軍の期待に反するものだったのだ。
まず質だが、この世界のセリア油田は、過去に皇軍がいた世界のセリア油田と比較した場合、どちらかといえば軽質油(要するにガソリン等)の量産に適する油質に傾いたものらしいことが判明したのだ。
航空燃料確保という観点からすれば望ましい話ではあったが、この世界の皇軍にしてみれば、艦船燃料確保が優先される話であり、その為に不可欠の重油確保という観点からすれば、歓迎できる話では無かった。
更に産出量、埋蔵量にしても、過去に皇軍がいた世界のセリア油田には及ばない規模ではないか、と推察される有様だった。
(もっとも、それでも、セリア油田の掘削、開発当初に、皇軍が持ち込んだ精油資材の量からすれば、持て余す程の産出量ではあり、当面の間、セリア油田から得られた燃料で、細々と日本海軍の艦艇や陸軍の輸送船は航行することになった)
更にこの事は、主に皇軍の技術者等に疑念を抱かせた。
ここは単純な過去の世界ではない、我々は過去に来た訳ではないのではないか、ということである。
勿論、かつて、皇軍がいた世界において、実際のセリア油田の詳細な内容、情報を把握しているのは、英国政府等であり、皇軍が入手した情報が、歪められていた可能性は否定できないどころか、大いにあり得る話ではある。
だが、セリア油田から産出される産出量、埋蔵量ならともかく、油質まで英国政府等が偽る必要性があるのか、と言われると。
これを皮切りに、各種資源の探査を、実際に皇軍関係者が行って見ると、皇軍関係者が把握している情報とは微妙に異なる事例が多発して行くようになる。
特に、日本国内でも同様の事例が多発するようになったことから。
皇軍関係者の多くが、我々は単純に過去の世界に来たのではなく、微妙にずれた過去の世界に来たのではないか、と推測するようになっていく。
もっとも。
そのことから、かつての世界から更に切り離された、と嘆く者もいたが、異なる世界に来たのなら、好き放題にやるまでだ、と却って張り切る者まで出たのだが。
ともかく、資源探査問題は、皇軍関係者にとって、頭の痛い問題を引き起こした。
かつての史実世界での自分達の地図や知識が、完全には信用できないことが、判明してしまったのだ。
後(正確に言えば、第2部以降)で述べることになるが、日本を完全に確保した皇軍関係者が、世界に赴く際に慎重な態度をとるようになったのは、この一件が皮切りになったのだ。
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