第80章―19
そして、最終的に閣議では、今後の日本、後金、モンゴル、明、琉球の五国関係については、国同士は対等だが、皇帝、国王の序列としては、そのような関係を結ぶということが決まった。
更に、伊達政宗首相は、二条昭実内大臣を介して、この件についての今上(後水尾天皇)陛下の御考えを伺うことになった。
さて、この話を二条内大臣から聞かされた今上陛下だが、尚侍の鷹司(上里)美子と語り合った。
「国同士は対等と言いつつ、皇帝、国王の序列を設けるとは、詭弁のような気がする」
「ですが、欧州諸国では全ての国王、君主は基本的に対等と言う考えが強いですが、このアジアの地では中華思想が蔓延し、君主の間でも序列が設けられてきたのが現実です。そうしたことからすれば、この辺りが落としどころと考えますが。それとも、明の皇帝から禅譲を受けられたいのですか。今ならば、明の泰昌帝から禅譲を受けて、(今上陛下が)中国の大地を皇帝として治めることも可能ですが」
今上陛下の問いかけに、美子は敢えて笑いながら答えた。
美子とて、事の重大さは重々承知している。
だからこそ、敢えて笑いながら言ったのだ。
下手に生真面目に語り合おうとすれば、ドンドン重い話になるからだ。
実際、それが正解だったらしく、今上陛下は顔を綻ばせながら言った。
「中国の大地を皇帝として治めるか。ヌルハチやリンダン・ハーンならば、喜んでやるやもしれぬが、朕の性には合わぬ。この京の地から、日の下(日本)を治めるだけで充分だ。そして、君が傍にずっといてくれればよい」
「私は人妻ですので、最後の御言葉には従いかねます。今上陛下の傍に侍られるのは皇后陛下です」
美子は即答した。
「確かに(今では)そうであった。最後の言葉は撤回しよう」
今上陛下は笑いながら言い、美子は肯いたが、二人共に今後のことを察している。
本当に鷹司信尚が薨去したら、どうすべきか。
二人共に、その先のことを考えずにはいられなかった。
美子は想った。
もし、今上陛下が明の皇帝からの禅譲を受けるのに積極的になれば、千江は皇后陛下に、自分は将来的には貴妃になるのだろうか。
私はそれでも構わないが、今上陛下は皇后陛下と私を対等にしたいようだ。
一方、今上陛下も想った。
中国では二后並立は出来ぬが、日本ならば出来る。
皇后と中宮は対等だからな。
その点からも、朕は中国の皇帝には成れぬな。
これが周囲に知られたら、人妻の為に皇帝位を捨てるのか、と言われそうだな。
そして、今上陛下は二条内大臣を介して、伊達首相の提案を受け入れる旨を伝えた。
それを受けて、伊達首相は更に動くことになった。
「取り敢えずは、明帝国内の明の皇族等を頭にした反日、反後金、反モンゴル活動を抑え込まねばな」
「確かに、これまでにモンゴルは四川省と雲南省をほぼ制圧しており、後金も北京を中心とする河北省をほぼ制圧しています。一方、日本軍も長江以南の南京以東、上海や杭州周辺を迎えていますが、まだまだ明の国土は広大で、それこそ人民の海の溺れそうだ、とあのリンダン・ハーンが零す有様です」
「泰昌帝を介して、明の皇族全員に北京に集うように命じよう。それによって、皇族を旗頭にする反日等の行動を迎え込もう」
「確かにその辺りが妥当でしょう」
「そして、皇帝や皇族を人質にとるというと言葉は悪いが。そういった状況に置いた上で、内政干渉と言われようと、明帝国の内政等の改革を行わねばなるまい。ともかく、これ以上の明帝国の混乱は見過ごせない。それこそ周辺諸国に流民が流れ出しては、トンデモナイ事態になる」
「後金もモンゴルもそれに賛同するでしょう」
伊達首相は閣議でそう話し合って決め、働きかけた。
話の中で皇后、貴妃と言う言葉が出てきますが、この辺りについて、実は今上(後水尾天皇)陛下や鷹司(上里)美子は誤解した発言をしています。
(というか、この辺りについて、この当時、この世界の日本で、何処まで正確な理解が為されていたのか、どうにも疑問で、このような描写になりました。
何しろ、日明間の国交断絶が70年以上も、この世界では続いていたのです)
今上陛下や美子にしてみれば、中国、明での貴妃は単なる側室と理解しており、皇后よりは遥かに格下、他の妃嬪と同様と考えているのです。
(尚、細かいことを言えば、明では皇貴妃は側室筆頭で、皇后の次の位になるとか)
そして、今上陛下にしてみれば、美子を単なる側室にしたくない、二后並立を果たしたい、と考えており、明皇帝の禅譲を拒むことになりました。
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