第80章―12
日本軍が南京を占領したことから、明帝国政府、軍も対応する動きを様々に執ることになり、それによって明帝国内が徐々に不穏になったのを、把握した日本等は第二段の作戦に移ることになった。
それは万里の長城を本格的に越えて、後金軍が北京及びその周辺を占領し、又、モンゴル帝国軍が四川省や雲南省を制圧しようという作戦である。
流石にモンゴル帝国軍については、様々な問題から、直接的な武装としては、銃火器類の強化が行われたに過ぎず、それこそ従前どおりの騎兵と歩兵の混成部隊による侵攻作戦を展開するしか無かった、と言っても過言では無いが。
(そうは言っても、マスケット銃や石弾を撃つ大砲を装備している明帝国軍に対して、モンゴル帝国軍は前線部隊にはM1カービン銃相当、後方部隊でも44式騎銃相当を装備している)
その一方で、通信装備の充実を図り、又、日本や後金から様々な軍事指導を受けたことから、近現代的な旅団、大隊、中隊、小隊、分隊といった部隊編制を行うようなことを、モンゴル帝国軍はしている。
そのために、リンダン・ハーンは3倍までの明帝国軍ならば野戦を行う限り、自分達は勝てる、と豪語していたし、日本等もその判断を了としていた。
さて、後金軍の方だが。
「自分達の先祖が見たら、怒り狂いそうだな」
「馬に乗って突撃しないとは、世も末だ。馬に乗るんだ、と怒鳴られるかもな」
「物資を運ぶのには、未だに輓馬が欠かせないとはいえ、前線部隊から騎兵が完全に消滅するとはな」
「でも、馬に乗って戦う時代ではないからな」
「日本と戦ってから、20年も経たない内に、騎兵が姿を消すとは。本当に思いもよらなかった」
「その代わりに戦車とか、自動車とかを大量に使うようになったな」
「それどころか、航空機さえ運用する時代が来るとは」
「初めて航空機に乗って空を飛んだ時には、本当に大丈夫なのか、冷や汗が大量に出たよ」
「俺に至っては、落下傘降下をやらされたよ。本当に死ぬか、と思った」
そんな会話をヌルハチの子どもを始めとする面々は交わすことになっていた。
実際、彼らの眼前に並んでいるのは、後金軍にしてみれば、虎の子といえる戦車旅団だった。
この世界では、後金軍は女真、満洲人は4個戦車旅団、4個自動車化歩兵旅団として編制されている。
そして、後方警備等の為に、兵は漢人や朝鮮人で、下士官以上は女真、満洲人とした徒歩歩兵8個旅団が編制されて、対明帝国戦争に突入することになっていた。
勿論、それ以外に空軍や海軍も、後金国が保有していない訳ではないが、陸戦において主力となるのが、この16個旅団を基幹とする陸軍なのは間違いない。
「戦車が日本軍のお下がり、と言って良いのが、少し残念だがな」
「そうは言っても、57ミリの主砲を装備していて、ローマ帝国や北米共和国軍でさえ、まだ前線部隊で使われている戦車と同級と聞いているぞ」
「日本陸軍が、主砲を75ミリに拡大した新型戦車の開発を完了して、量産化を始めたからな。旧式化した既存の戦車を安く買えた、と良い方に考えよう」
「そういえば、ローマ帝国や北米共和国も、日本の新型戦車に対抗して、75ミリ主砲を搭載した新型戦車の開発中らしいな。来年中には、量産化される見込みらしい」
「兵器の改良は急としか、言いようが無いものだな。航空機にしても、プロペラ機からジェット機へ、更にその速度も超音速が当たり前になりつつあるか」
ヌルハチの子どもらの会話は、更に弾むことになった。
ヌルハチの子ども及びその周囲は、眼前に広がる部隊を見ながら、改めて考えた。
こういった兵器の改良は何処まで進んでいくのだろう。
又、自分達は何処まで見られるだろうか。
それこそ史実で言えば、ベトナム戦争初期の頃なのに、戦車がしょぼすぎる、と言われそうですが。
これまで描いてきた経緯から、この世界では戦車の発達が遅滞したため、と緩く見て下さい。
(史実の独ソ戦のような大戦車軍団の激突ということが、この世界では無かったのです)
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