第79章―3
ともかく、明帝国の国内情勢は極めて良くない、としか言いようが無かった。
それこそ明帝国の税制は銀納が基本なのだが、大幅な貿易赤字による銀の流出から、国民の税負担が極めて重くなりつつある現状に、明帝国は陥りつつあるのだ。
この背景だが、日本本国等が産業革命を進めた結果として、様々な工業製品(特に織物類)の値段が暴落した結果、それこそ大量の農業産品を輸出する一方、工業者の多くが没落する事態が引き起こされ、明帝国内の工業が衰退したことだった。
そのために、織物類等の工業製品の多くが、日本等から明帝国に輸入されるようになったのだ。
勿論、その一方で明帝国内の様々な農産物、例えば、大豆等が輸出されるようなことがあったが、そうは言っても、大幅な貿易赤字を補うには、とても足りない現実が長年続いていたのだ。
そして、こういった現状から、多くの農民が様々な商品作物を栽培することで、少しでも収入を増やそうと努力することになった。
それ自体は、農民の自主努力として称賛されるべきことだが、問題はその商品作物の中で、明帝国の農民の間で最大の人気商品作物になったのが、阿片系麻薬の原料となるケシだったことだった。
何度か既に述べているが、阿片自体は古代からある麻薬である。
だが、その生産は様々に手間暇が掛かる代物で、阿片はそうこの世界では余り普及していなかった。
しかし、「皇軍知識」は皮肉にも、ケシからの阿片の抽出や、更にはモルヒネやヘロインといった阿片系麻薬の製造を可能に、容易にしてしまったのだ。
そして、こういった知識は闇で徐々に広まるのは、古今東西で変わらない現実と言える。
日本は「皇軍知識」から阿片系麻薬を厳重に取り締まる方向に奔り、更にその影響から、日系諸国や欧州諸国、オスマン帝国等でも阿片系麻薬については厳重に取り締まられるようになったが、明帝国内ではそのような取り締まりが行われない事態が起きてしまった。
そのために、産業技術の問題から、ヘロインや高純度モルヒネは流石に明帝国内で製造されなかったが、明帝国内で高純度の阿片や低純度のモルヒネが製造されて蔓延する事態が起きた。
そして、これらのことは関連して明帝国の民心を急激に荒ませることになった。
銀の流出により、税負担は重くなる一方になっている。
更にケシの栽培は明帝国内で盛んになり、それによってケシから作られる阿片系麻薬が明帝国内で大量に蔓延するようになっている。
こうした現状を前にして、多くの明帝国の国民、それも心ある者程、この国に未来はない、と考えるようになったのだ。
では、自分達はどうすべきなのか。
心ある者程、皮肉なことに明帝国の外に逃れることで、自分や家族を守ろうとするようになった。
下手に明帝国に叛乱を起こすという危険を冒すよりも、日本や後金、モンゴルといった国に亡命して、自分達は生き延びようと考えるようになったのだ。
確かに明帝国に対する叛乱を企てるよりも、亡命する方が当事者にとってリスクは低い。
更に倭寇というよりも、北虜南倭の跋扈は、そういった明帝国の国民の亡命を歓迎する方向に流れた。
だが、これはこれで徐々に問題を引き起こした。
受け入れ先にしても、少数ならばある程度は歓迎できるが、それが多数、具体的に言えば、数万、数十万とかになってくれば、とても歓迎できる話ではない。
更に言えば、明帝国の混乱からすれば、更に桁が上がる、数百万人単位の亡命者が周辺諸国に溢れ出す可能性が考えられだしたのだ。
こうしたことが、明帝国への介入を本格的に日本等が計画する事態を引き起こしていた。
本音から言えばやりたくはないが、大量の亡命者を阻止する必要があった。
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