第77章―4
色々と今の日本の現実からすれば、エッと考えられる描写がありますが。
私が調べる限りでは、例えば、工員と事務職といった職種の違う労働者が、同じ企業の従業員だからといって、同じ労働組合を結成するのが、世界的には稀なようです。
更には、話中で描いたような事情が、世界の労働組合的には多数派なようです。
ともかく、こうした背景事情を踏まえて、女性の衆議院議員の増大を、伊達政宗以下の労農党主流派は図る事態が生じたのだが。
これまでに描いた背景事情からして、そう易々と女性議員を増やすどころか、女性議員の候補者募集にしても、一苦労どころでは済まない事態が起きるのは必然だった。
だが、メタい話を混ぜざるを得ないが、この世界の日本では、史実世界の昭和から令和に掛けての日本と異なる事情があり、女性議員候補者を労農党は集めやすかったのだ。
この世界の日本では、史実の昭和から令和の日本に比べて、年功序列賃金制度が極めて弱かった。
更に言えば、令和になってもそうだが、史実、現実の日本の多くの企業においては、新卒一括採用を基本に考えていて、更に言えば、労働組合にしても企業別で、日本以外では珍しい工員も事務員も同じ企業の組合に入るのが当たり前になっているという現実がある。
だが、この世界の日本では異なっていた。
労働組合は、職場に根差した上で結成されるモノという意識が強く、工員と事務員は、同じ企業で働いていても、別の労働組合を結成しているのが当たり前だった。
更に言えば、「皇軍来訪」に伴い、急激な工業化、産業革命に伴う商工業の発展が、この世界の日本本国では行われたことから、労働者にしてみれば、少しでも有利な条件が示されれば、転職するのが当然という意識が培われることになったのだ。
勿論、長年に亘って、同じ職場で同じ仕事で働けば、その仕事に習熟することになり、それなり以上の賃上げが行われるのは当然のことである。
だが、史実の昭和から令和の日本と異なり、労働者の転職が当たり前、という意識がこの世界の日本であるのは、極めて大きな違いと言うしか無かった。
それこそ端的な話になるが、結婚や出産に伴って退職した女性にしても、再度、働くならば、それなり以上に職場経験を踏まえた賃金を支払うのが当然、という意識が、暗黙裡に日本本国の経営者や労働者の間では漂うのが当然になった。
実際に、それなりの技能を持つ労働者を集めようとするならば、それなりの処遇を行うのが当然のことだし、更に言えば、仁義無くして、他社から労働者を引き抜くことの何処が悪い、というのが、この世界の日本の労働市場の感覚なのだ。
現実の日本の多くの労働組合の幹部が卒倒しそうだが、この世界の日本の労働組合では、組合員が職場の現状に不満を覚えて、転職相談を労働組合に行えば、労働組合が組合員の希望を聞いて、転職先を斡旋することさえ当たり前だった。
(尚、現実世界の外国の労働組合では、これが多数派の行動のようで、日本が少数派なようです。
日本の場合、企業別組合が当たり前なので、労働組合が外部企業への転職を勧めるのはおかしい、と言う発想になるのですが。
日本以外では、産別組合が当たり前で、企業内に職種に応じて複数の労働組合があるのが当然という事情もあり、又、労働組合にしても、処遇の悪い職場で組合員を働かせるのを認めては、組合員から見限られる事態が起きるので、そんな職場、企業からは転職しろ、と組合員の背を推す事態が起きるとか)
そんなこんなが相まって、この世界の日本では退職したといっても、転職先をそれなりに探しやすいという現実が引き起こされていた。
だから、労農党が女性の衆議院議員候補者を公募した場合、実際に衆議院議員に当選したら、休職どころか、退職を余儀なくされるとはいえ、衆議院議員を退任した後も、それなりの仕事はありそうだ、と公募に応じる面々は考える事態が引き起こされることになった。
実際に、これまで全労連が転職斡旋を行ってきた実績からして、そう考えて当然だった。
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