第74章―19
「確かにその点では良かった、と言えるだろうな。保守党の北条派や今川派等の非主流派や無派閥の面々を、我々なりに煽ることが出来た。とはいえ、これは諸刃の剣だ。我々の弱点にも気づかされた。我々とて省みてみれば、一枚岩からは程遠い。そこを保守党に色々と衝かれる可能性は否定できない」
伊達政宗は、自省しながら言わざるを得なかった。
「確かにそうですね」
宇喜多秀家も、同様の想いから手短に答えた。
保守党の内部分裂を、労農党とて決して笑ってみることはできない。
労農党内で幅を利かせて本流、主流派を形成しているのは全労連関係者で、政宗も秀家もそうした点からすれば本流を歩んできた立場だが、それが全てではない。
池田輝政を始めとして、それなりに様々な傍流というか反主流派がいるのだ。
更にややこしいのは、保守党の派閥争いは、それぞれの出身地域の利害対立が強いのだが。
(例えば、島津派の多数が九州出身者であり、北条派は関東出身者が基盤等という事情がある。
とはいえ、中選挙区制からくる事情から、派閥対立の末に、九州出身でありながら上杉派に属したり、関東出身で尼子派に属したりする面々がいるのも現実だった)
労農党の内部分裂は、それぞれの政治思想も絡んでいることが難儀な事態を生んでいた。
従来から強い全労連出身者を中心とする工員、(現代風に言えばブルーカラー)労働者を基盤とすべきと考える者、党名から分かるように中小農民層を取り込むべきと考える者、又、最近、増えている労働者の中でも都市の事務員、(現代風に言えばホワイトカラー)労働者を重視していくべきと考える者等々、百家争鳴といえる状況に労農党はある。
「労農党の従来からの強い支持基盤に加え、新たな支持基盤を開拓し、そこから生まれた議員を自分の子飼いの支持者にして、更なる主流派を形成していこう、と考えている。幹事長として協力してくれ」
「具体的には、どんな支持基盤を開拓されるつもりですか」
「女性だ。将来的、数十年先には労農党の約半数の国会議員を、女性が占めるようにしたい」
「えっ」
政宗の言葉に、秀家は絶句した。
何だかんだ言っても、この(世界の)当時の日本では女性は一段低い立場にある、と言われても仕方のない現実があった。
だからこそ、家制度が健在で、男性家長に妻等の女性は従うべき、という考えも根強かった。
又、愛妾を持つ男性が、そう非難されない背景の一つとして、男女平等が謳われつつ、男性優位という社会意識が強いというのもあった。
政宗と秀家は、更にやり取りをした。
「何を驚く必要がある。男性も女性も共に選挙に際しては、同じ一票を持つ存在ではないか」
「確かにそうですが」
「それから考えれば、国会議員の半数が女性になって、何処がおかしいのだ」
「確かにおかしくはないですが、女性は家庭のことをするのが当然で、様々な活動をするのは困難で」
秀家がそこまで言ったところで、政宗は口を挟んだ。
「織田の伯母上(織田(三条)美子のこと)の前で、そう明言できるのか」
「いや、私は言えません」
秀家は即答した。
実際、尚侍に抜擢された後、織田(三条)美子は家庭内に殆ど止まらずに様々な活動をしている。
とはいえ、それには様々な援けがあったのも事実ではあった。
だからこそ。
「織田の伯母上が、そこまで出来たのは、様々な援けがあったのは事実だ。だが、そんな援けが特別ではなく、当たり前に受けられて、女性が普通に働ける社会にしたい。その為には女性が声を国会の場で挙げられるようにしようと考えて、何処が悪いのだ。更にそうすれば、女性の票を我々は得られるだろう」
「確かに」
政宗は、秀家の説得に本格的に取り掛かった。
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