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第74章―12

 さて、労農党による「保守合同」阻止の裏工作だが。

 本来ならば労農党党首である伊達政宗の懐刀として、真っ先に動くべき第一秘書の広橋愛は、この裏工作から表面上は外されていて、伊達政宗側近の秘書の面々の中では片倉重綱らが主力として動いていた。

 さて、何故にこのような事態になるのか、というと。


 政宗は広橋愛に直に説明をしていた。

「ともかく君は目立ちすぎるのだ」

「確かにそうですね」

 広橋愛も素直に認めざるを得ない。


(メタい話で、何度も描いているが)広橋愛は、純粋なアラブ系の美女である。

 そんな広橋愛が日本国内で密行する等、不可能に近い。

 更に言えば、何だかんだ言っても(この時点での)日本の衆議院議員の圧倒的多数が男性である。

 そして、男性の衆議院議員の下に、広橋愛が頻繁に出入りするようなことをしては。


 それこそ、広橋愛が女性の魅力を活かして、男性を誘惑しているという噂が流れかねない。

 更に厄介なことに、広橋愛の実の娘が、鷹司(上里)美子なのは公知の事実である。

 余りにも公知の事実過ぎて、全くスキャンダルにならない程だ。


 だからこそ、逆に広橋愛が下手なことで動いては、鷹司(上里)美子に火の粉が飛びかねない。

 鷹司(上里)美子は、先日、尚侍を今上陛下から罷免されたが、昨年の猪熊事件の処理と今年の皇太子殿下の婚約をまとめたことで、義理の伯母になる織田(三条)美子の後継者として完全に名を挙げ、その腕が高評価される事態を起こしている。 


 そして、鷹司(上里)美子に火の粉を飛ばしては、色々な意味で政治的に良くない。

 それこそ五摂家が、火の粉を飛ばした者に対して、完全に反目に回りかねない。

 そうなっては、貴族院全体が敵に回り、それこそ立法や予算等がまとまらない事態が起きかねない。

 何だかんだ言っても貴族院は、究極では五摂家が牛耳っているのだ。


 鷹司(上里)美子が、皇太子殿下の婚約をまとめた、それも養女とはいえローマ帝国の皇女にして、北米共和国大統領の実の娘との婚約だ。

 という噂が、まだ正式には発表されておらず、それこそ全ての新聞や雑誌、テレビやラジオが沈黙する中、政財界の最上層部では密やかに流れつつある。

 そして、この婚約をまとめ上げた鷹司(上里)美子に、五摂家全てが好感を持っているのだ。


(皇太子殿下の正式な婚約発表は、北米共和国の大統領選挙が終わった晩秋になりますが。

 これ程の大事である以上、どうしても噂が流れるのは避けられないのです)


 ともかく、こうした事情から、政宗は広橋愛を政治工作に駆使するのを躊躇わざるを得なかった。

 広橋愛を政治工作に駆使し、万が一にも五摂家の逆鱗に触れては、洒落にならない事態になる。

 そして、広橋愛は極めて目立つ存在でもある以上、密行させるのは困難だ。

 それよりも、敢えて広橋愛を動かさないことで、政宗は自らは動いていないように装い、片倉重綱らを密やかに動かす政治工作を成功させようと考えたのだ。


 そうしたことから。

「お母さん。お仕事は大丈夫なの」

「いいの、いいの。ずっとお子さんと離れていたのだから、定時で帰って下さい、と皆に言われるの」

 養子の正之と、広橋愛は母子の団らんの時間を多くとって、のんびりしていた。


 選挙戦が終わった後、1月近く陸前県に張り付いていた代わりとして、1週間の特別休暇を貰って、母子は水入らずで泊りがけの観光旅行まで行っている。

 その休暇後も、愛は定時の出退勤を続けていて、事務所でも表向きはのんびりと仕事をしていた。


 敵を騙すには、まず味方からか。

 広橋愛は、裏では片倉重綱らからの政治工作活動の報告等を政宗にして、陰の軍師役を務めつつ、そんなことが頭に浮かぶ日々を過ごしていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  政治家 政宗 視点で描かれる裏事情の緊迫感と『では筆頭秘書広橋愛は手隙の合間に何をしていたのか?』でぶっちゃけられる正之くんと愛お母さんのほのぼの会話のギャップに読者も何故かメロメロ♪何…
[良い点] 「余りにも公知の事実過ぎて、全くスキャンダルにならない」というのが面白い。いろいろ深読みする人が出そうな感じ。
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