第74章―4
ともかく、そんな状況に日本本国の鉄道網はあったのだが。
日本本国の人口増、更には物流の全般的な増加傾向が進んだ結果として、いわゆる地方はともかく、この世界の日本最大の幹線鉄道と言える山陽本線の線路容量が徐々にひっ迫する事態を、1600年以降には引き起こすようになっていた。
とはいえ、そう簡単に山陽本線の線路容量を増やすことはできない。
既に完全複線化、更には完全電化という対策が、山陽本線には行われていた。
これ以上に山陽本線の線路容量を増やすとなると、完全複々線化を図るしか無いのが現実だった。
とはいえ、単純に山陽本線の完全複々線化を図るというのも、政治的には悩ましい話だった。
そんなことをするよりも、地方の鉄道の支線網を充実させるべきだ、という世論は極めて強いモノがあり、それこそ与党内でさえ、そういった声が極めて強かったのだ。
そうした状況下で起きたのが、ユーラシア大陸を東西に横断する大鉄道建設計画、いわゆるユーラシア横断鉄道建設計画だった。
この計画と絡めた形で、新幹線計画が尼子勝久首相の下で提起されることになった。
それこそ世界の模範となる新時代の高速鉄道を、日本本国内に建設しよう。
何れはそれが基準となって、ユーラシア横断鉄道等が運行されるようにしようという極めて野心的としか言いようが無い計画だった。
そして、それを新幹線と呼称する、と尼子首相は言ったのだ。
さて、この日本国内の高速鉄道建設計画だが、実は裏があった。
山陽本線が日本本国内の大動脈であるのは事実だったが、その一方で、尼子首相自身の地元である出雲や中国保守党の地元に対する利益誘導という側面も裏であったのだ。
中国保守党は言うまでも無いことだが、結党を主導したのは小早川道平だった、
更に小早川道平は、その閨閥や支持基盤(主に軍部や本願寺門徒)を駆使し、更に労農党と保守党の間の第三党という中国保守党の立場まで使うことで、我田引水ならぬ地元への利益誘導に努め続けて来た。
そうしたことから、東北や関東がやっかむ程に、山陽と山陰の交通路整備の大義名分の下、中国地方の鉄道網が、中国保守党主導の下で進む事態が起きた。
史実で言えば、智頭線や伯備線や山口線が建設され、又、中山間部でも姫新線や芸備線が建設されるということになったのだ。
とはいえ、ここまでの鉄道網が整備された以上、これ以上の鉄道網を建設する必要性に乏しいのが中国地方の現実で、中国保守党にしてみれば、これ以上の我田引水ならぬ我田引鉄は困難だった。
そういったところに、尼子首相は新幹線建設計画をぶち上げたのだ。
そして、この新幹線建設計画には、我田引鉄のために中国保守党は全面賛成する事態が起きた。
更にこの計画には、野党等は表立って反対しづらいというのが現実だった。
何しろ新時代の高速鉄道、それも世界標準となる高速鉄道を建設しようというのだ。
実際に建設に成功すれば、日本の国威を大いに高めるのは間違いない。
そして、そのためには様々な政府からの投資が行われるのは間違いなく、更に日本どころか、世界にまで及ぶ将来の波及効果まで考えていけば、財界を筆頭に大賛成の合唱が起きるのが当たり前だった。
下手に反対の意見を述べては、それこそ逆ねじを世論から食らうことになってしまう。
だが、その一方で、この新幹線建設計画が下手に進んでは、それこそ鉄道建設が遅れている東北や関東地方の有権者にしてみれば、地元の鉄道建設が更に遅れるというのが見えるのも、又、現実だった。
こうしたことから、陸前県の有権者の間でも、この新幹線計画に関する関心が高まっており、政宗はそれなりの意見を言わざるを得なくなっていた。
この世界の新幹線は、ユーラシア横断鉄道との絡みから貨物輸送も視野に入れての建設になります。
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