第74章―2
実際に今年の正月明けに片倉景綱が病に臥せって、伊達政宗の第一秘書を退職した直後に、今後のことを考えて、政宗は広橋愛と共に陸前県に赴いて、陸前県の地元有力者の間の挨拶回りをしたのだが。
その際に誤解を生じないように、政宗は妻の伊達愛子を常に同伴する配慮までしたのだが。
陸前県から京に戻った直後、実際にそうだったらしいが、国分盛重から政宗の下に電話連絡があった。
「トンデモナイ噂が流れておるぞ」
「どんな噂ですか」
「お前(政宗)が妻妾同伴で地元の挨拶回りをしたという噂だ」
「何でそんな噂が。まさか叔父貴が噂を流したのでは」
「邪推も程々にしろ。儂はそんな噂は流しとらん」
そんな叔父甥の口喧嘩がまずは起きて。
盛重が説明をして、更に念のために片倉重綱らが地元を回って噂を確認したところ。
「政宗夫妻の傍にいた女性秘書は誰だ?」
「広橋愛という女性らしい」
「凄い美女だな。大人の女性の魅力に溢れている」
「単なる秘書かな」
「どういうことだ」
「あれ程の美女だぞ。それ以上のことは言わぬが花だ」
「確かに」
そんな感じの噂が発端として流れ、尾ひれがつきまくった結果。
「絶対に下手な奴には言うなよ。伊達政宗に愛妾ができたらしいぞ。更に言えば、妻の愛子さんも、その愛妾を気に入っていて、姉妹のように仲が良いとか」
「そんなことがあるものか。妻と妾が仲が良いなんて」
「いや、その愛妾なんだが、本当に妻が赦す程の美貌と性格らしい。何しろ、元は政宗の叔父になる上里清の愛妾だったのだが、上里清の妻に気に入られてな。妻の連れ子養女として、上里家の一員になったとか。更には、公家の名家である広橋家の姓を名乗るようになったまでなったとか。その後、上里清との男女関係は切れたのだが、今では政宗の表向きは秘書、実際は愛妾になったらしい」
「そうなのか」
最終的には上記のような噂が、密やかに陸前県内では流れる始末になったとか。
その噂を聞かされた広橋愛と伊達政宗は、頭を抱えざるを得なかった。
実際に事実が一部混じっているのが、本当に怖い。
これでは事実が混じっている以上、却って嘘の噂の真実味が増してしまう。
かと言って、下手に否定しまくっては、逆にこの噂が広まるだろう。
そこで、政宗は別の噂を広めることにした。
「広橋愛だが、下手なことを言わない方が良いぞ」
「織田(三条)美子と内大臣の鷹司信房が、政宗を責め立てたとか」
「何で又」
「広橋愛は、織田(三条)美子の義理の姪になるし、更に言えば、義妹にして実の娘の鷹司(上里)美子は鷹司信房の長男の嫁で、尚侍だからな。広橋愛に手を出しているのは本当か、と二人掛かりで責め立てられて、政宗はトンデモナイ、と全力で否定したそうだ。彼女は本当に単なる秘書ですとな」
「確かにその二人に対して否定したのなら、本当だろう。もし、実は関係を持っていたら、唯では済まない事態になるだろうからな」
「だろう。特に織田(三条)美子に嘘を吐いていたら」
「政宗は確実に南極送りになりそうだな」
そんな噂を別途、流すことで、何とか広橋愛が政宗の愛妾だという噂を、かなり消したのだ。
尚、こんな噂が陸前県内で流れたことについて、いい加減な噂を流すな、と鷹司信房は渋い顔をしたが、織田(三条)美子は逆におもしろがった。
「確かにねえ。下手に否定する噂を流すよりも、遥かに効果的でしょうね。それにしても、私は人を南極送りにしたことは無いわよ。貴方と違って」
「その辺りは、私のやったことと混ぜて、噂を伝えたのでは。同じ名前ですし」
織田(三条)美子は、鷹司(上里)美子に対して直に言い、義理の姪は何とも言えない表情を浮かべながら、伯母に答えることになった。
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