第2章ー4
「後、それから本日以降、まずは、ジャガイモとサツマイモ、トウモロコシの食事の利用は禁止する。それらは、今や貴重品となったのだ。厳重にそれらは管理され、栽培して増やしていくことにする。他の農産物にしても調査の上、タネがあれば、同様に厳重に管理されることになる。各部隊は、手持ちのタネを厳重に調査して、速やかに報告できるようにしておくように」
山下奉文中将は、その場にいる将官の面々に更に言い、全ての将官は無言で肯いた。
このことに最初に気付いたのは、小沢治三郎中将だった。
宮崎出身であり、サツマイモに親しんでいた小沢中将は、もし、史実通りならば、サツマイモが最早、新たにはすぐに手に入らないことに気付いた。
更に、ジャガイモやトウモロコシにも同じリスクがあることを、他の将官達も会話する中で気づいた。
何しろ、これらは中南米原産だ。
この過去の世界に、南北アメリカ大陸が、本当にあるのか、更にそこに、ジャガイモ等はあるのか、あるとしても、史実同様に品種改良等がなされているのか。
それらの危険を考え合わせれば、何としても管理、保護せねば、ということになった。
そして、考えを進める内に。
16世紀のこの世界では、史実通りに品種改良等が為されていても、20世紀並みに改良された野菜や果樹等の品種も、同様に乏しいことにまで考え及んだことから、上記のように山下中将が命じることになったのだ。
なお、この件は、近藤信竹中将も同意し、海軍の最高位の将官として、後で艦隊に命令を下している。
少し横道にそれるが。
この件について、トウモロコシはともかく、ジャガイモ、サツマイモについては、下士官兵から大いに不満がこぼれた。
それなりに慣れ親しんでいた下士官兵にしてみれば、目の前にあるのに食べられない、というのは不満を増大させるものだったのだ。
これに対して、牟田口廉也中将が、
「お前ら、ぜい沢を言うな。お前らは、サトイモやヤマノイモも食べたことがあるだろうが。文句を言う時間があったら、タロイモやヤムイモの食い方を研究してみろ、あれは、サトイモやヤマノイモの親類だ。ジャガイモやサツマイモだけが、イモではないぞ」
と大声を出して、大いに叱咤激励して、一時的に多くの下士官兵の考え方を変えさせたのだが。
その牟田口中将が率いる第18師団、菊兵団が、後々で、日本本土一番乗りを果たしたことから。
フィリピン等にいる間、タロイモやヤムイモを食い飽きて、故郷のサトイモやヤマノイモの味に焦がれた一部の下士官兵は、先に日本に帰還して、故郷の味に親しみやがった牟田口を許すな、という空気が漂うことになり。
後々になって、ほとぼりを冷ますためもあって、牟田口中将は、北方経由での北米大陸探索任務に赴かされる羽目になり、アリューシャン列島の極寒に震える羽目になったのは、自業自得というべきなのか、八つ当たりされたというべきなのか、悩ましい所である。
そして、マニラ総督の地位については、陸海軍の将官同士の話し合いが、延々と半日行われた末に。
本間正晴陸軍中将が総督に、高橋伊望海軍中将が副総督(但し、総督命令に拒否権がある)というある意味、双頭での総督ということで、最終的に話はまとまることになった。
これは、陸海軍共に、自分が総督を出すことで、マニラを始めとし、徐々に拡大していく予定の領土について、優先的に確保しようとしたことからだった。
それにお互いに微妙に見ているものが違うことも、対立が生じた一因だった。
陸軍は、領土拡張を第一としてマニラ等を見たのに対し、海軍は、交易の拠点確保を第一としてマニラ等を見たのだ。
この時、皇軍の領土拡張の迷走は始まっていた。
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