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第73章―14

 実際に後金とチャハル部の講和の会談の場というよりも、ヌルハチとリンダン・フトゥクト・ハーンの面談の場、更にその場に上里清が立ち会ったことは、リンダン・フトゥクト・ハーンに多大な誤解を生じさせることになった。


 リンダン・フトゥクト・ハーンの下には、後金が自らの率いるチャハル部との講和を圧倒的な戦況にも関わらず、申し込んできたのは、日本が後金国に戦争を止めるように申し入れたからだ、という噂が届いていた。


(尚、これは本当の話と言って良く、尼子勝久首相は、それこそいい加減にしろ、後金は周辺諸国に戦争を吹っかけるな、と後金を指導していた、といっても間違いないのが、当時の状況だった。


 この日本政府の指導に対し、ヌルハチは頭を下げる一方で、チャハル部に対する戦争終結を日本政府に見届けて欲しい、その見届け人として、退役している上里清陸軍大将を希望する、と回答した。


 この回答内容について、ヌルハチなりに更なる策謀の臭いを、日本政府側も感じたが。

 とはいえ、上里清が後金に対して行った様々な指導は宜しきを得たと言って良く、ヌルハチ以外の多くの満州人にも、上里清が慕われていたのは、尼子首相以下の日本政府の要人にとって知るところだった。


 だから、日本政府としても、ヌルハチの回答を拒み切れず、上里清を派遣することになったのだ)


 そんな背景があったことから、リンダン・フトゥクト・ハーンは面談の場で、自分が率いるチャハル部の面々と、ヌルハチが率いる後金の面々が向かい合うように座る状況で、その間の上座に座る一人の男性に注目せざるを得なかった。


 一体、誰だ、まさか上里清か。

 そう推量したリンダン・フトゥクト・ハーンは、この面談に参加する面々が揃い、ほぼ着席した瞬間に確認の声を挙げた。

「上座に仲裁の為に座っておられるのは、何方でしょうか」


「日本から派遣された上里清殿です。尚、背景等は言わずとも御存知かと」

 ヌルハチは(敢えて)微笑みながら言った。


「おお、お初にお目にかかります」

 リンダン・フトゥクト・ハーンは、上里清に頭を下げながら言った。


「これはご丁寧に」

 上里清は手短にそう答えながら、頭を下げた。


「この場に上里清殿がおられる理由は、敢えて述べる必要はありますまい。何しろ上里清殿の御息女は日本の今上陛下の宮中女官長を務められています。それだけ言えば充分でしょう」

「おお、そういった御事情ですか。言葉にせずとも結構、分からぬようでは無能と認めることになる」

 ヌルハチとリンダン・フトゥクト・ハーンは、更なるやり取りをした。


 ヌルハチは、上里清が日本の今上陛下の内意を受け、この場の立会人になっている、と誤導するようなことを言っていた。

 更にリンダン・フトゥクト・ハーンは、そのヌルハチの誤導に引っ掛かったのだ。

 そして、上里清も沈黙を保つことで、ヌルハチの誤導を咎めなかったのだ。

 

 実際、この会談の情景を後で知った尼子首相らも、上里清の行動を咎めづらい話だった。

 上里清の娘の鷹司(上里)美子が、尚侍を務めているのは公知の事実と言って良い。

 だから、ヌルハチは間違ったことを言った訳では無く、間違ったことは言っていない以上、上里清が沈黙するのも当然だった。


 だが、ヌルハチの言動を見聞きすれば、リンダン・フトゥクト・ハーンが、日本の今上陛下の内意から、後金は講和を呼び掛けたのだ、と考えるのは当然と言って良かった。


(既述だが)リンダン・フトゥクト・ハーンとしては、勝勢にある後金からの講和呼びかけに疑念を覚えていたのだが、日本の介入があったのか、と得心することになった。

 それ故に疑念が消え、ヌルハチとの会談に前向きに応じることになった。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  一見すんなりと和平に落ち着く流れに見せつつ、ちょこちょことキナ臭い雰囲気を漂わせるヌルハチさんと少し後の日本側視点では幾許かの後悔がある事からこの会談がアジア史を大きく揺るがせるフラグに…
[気になる点] モンゴル人は日本の評判をどれだけ知っていますのか? 日本が明の数倍の国土を持っていることを知っていましすのでしょうか?
[良い点] ちょっと、「桃園の誓い」を連想しました。 モンゴル・満洲・日本の三国が共同しアジアの安寧秩序を維持する。 残り少ない皇軍来訪者の古老がこの報道を聞けば感慨深いでしょう。 [一言] モンゴル…
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